第25章 はじまりは小さなカフェで
赤井はカホの手をしっかり掴んで上に引っ張る。
赤井もまた、援助だとはいえカホの手を掴んではその細さと小ささにこいつは女なのだと改めて思った。
ちゃんと食べているのか
思わずそう心配してしまうほど、カホは軽々持ち上げられた。
自分が助けに来なければ、恐らくカホは…
そこまで思って赤井は地面に横たわっているアーサーに殺意が湧いた。
カホに乱暴な行為をしたのもそうだが、赤井は自分が助ける前にアーサーがカホの口元を覆っていたのを思い出した。
それを見た時思ったのだ。
触るな、と。
今になってそれを思い出し、なぜ自分がその時そう思ったのか考えるも今更分からない。
人と必要以上に関わろうとしない赤井。
ましてや異性なんて以ての外。
なのにどうして自分は今ここにいるのか。
確証もないのにアーサーを追って、目の前にいる彼女を助けて
いつから自分はそんなことをするようになった?
赤井の手からカホの手がそっと離れる。
「ありがとうございます。本当に、何とお礼を言ったらいいのか…」
「俺がしたくてした事だ。お礼もいらん」
「でも、このまま何もしないって言うのは」
「また美味しいコーヒーを淹れてくれ。それで十分だ」
赤井はそう言うもカホはそれに頷くことは出来なかった。
ちょっとのことじゃない、自分を身の危険から守ってくれたのだ。
それなのに、コーヒーを淹れるだけでいいなんて、そんなのただの自分の仕事にしかすぎない。
もっと、別の何か…
「な、なら!名前を、教えてくれませんか!」
そう言ってしばらくしてからカホは顔を赤く染めた。
「ち、違いますね…何言ってるんだろ」
カホは貴方にお礼をしたいからせめて名前を教えて欲しい、そう聞きたかったのだが慌てていたあまりに大切な所を省いてしまった。
名前を知りたい、
それはカホの本音だったがこんな言い方ではあまりにも図々しい。
目の前で顔を赤らめて慌てる彼女に赤井は思わずふっ、と笑った。
「赤井秀一だ。好きに呼んでくれて構わない」
相手にこんな形で自分の名前を紹介したのはいつぶりだろうと赤井は思った。
目の前の彼女は口をポカーンと開けてこちらを見ている。