第25章 はじまりは小さなカフェで
カフェではいつも清らかに笑っているカホ。
その笑顔のせいか、元々の美貌のせいか、カホはどこか大人びて見える。
けれど目の前で泣きじゃくっているカホは決してそんな風には見えない。
カフェでのアーサーとの会話がカホにとってどれ程恐ろしく、嫌悪感があったのか。自分がアーサーを殴るまでどれだけ怖かったのか
赤井は優しくカホの肩に手を乗せる。
「もっと早く助けてやればな、すまない」
「…っ、」
カホは大きく首を横に振る。
「コーヒーの、…おかわり…」
「あんなことしか出来なかった。あそこで止めるよう言っとけばよかったな」
赤井は申し訳なさそうにそう呟いた。
カホはその姿に胸が苦しくなった。
貴方が悔やむことじゃない、貴方は私を助けてくれたのに
今だって肩に乗っているこの手が、どんなに私を安心させてくれているか
「嬉しかったです…あの時の私は、貴方の言葉に救われた気がしました」
カホは赤井にそう告げた。
赤井はその言葉に一瞬驚きの表情を見せた。
けれどすぐにその表情は柔らかいものになった。
「そうか、なら良かった」
赤井は少し笑った。
カホは赤井が微笑むのを見たことがなかった。
この人はこんなにも優しく笑う人なんだ
カホはその表情に胸がキュッと苦しくなった。
そうかと思えば胸の辺りが熱くなって、ドクンと心臓が力強く跳ねた気がした。
なに、これ
カホは心臓の辺りを手で摩った。
「どうした?痛むのか?」
「えっ、あっ…いや、違います!」
カホはサッと手を胸から離す。
それでも熱く、締め付けられるような感触が消えない自分の胸に違和感を覚える。
そんな時、カホの視界に映った大きな手のひら。
カホが視線を上げると、赤井がカホに手を差し伸べていた。
「そろそろ辺りも暗くなってきている。早めに帰った方がいい。親も心配するだろう」
カホは目の前に差し出された手の意味を理解した。
カホは赤井の手をそっと握る。
大きくて、ゴツゴツしていて、何だかとても安心感があって
自分とは全然違う手の感触に、カホは今になって赤井は男なのだと言うことを意識した。