第25章 はじまりは小さなカフェで
カホは今までに感じたことの無いほどの恐怖に襲われていた。
自分の危機感の無さを悔やんだ。
やだ…やだ、怖い…助けて
そう思うもそれを声に出すことは出来なかった。
すぐ側まで迫っているアーサーの手。
その手に触れられると思うとカホは気持ち悪さまで感じた。
カホはギュッと目を瞑った。
目の端から涙が溢れた。
ドガッ…
聞いたことも無いような惨い音が暗闇の中で聞こえた。
カホの口元を覆っていた感触が消える。
そしてドサッと何かが倒れる音。
カホは目の前で何が起きているのか分からなかった。
確認したい気持ちはあったが、それよりも恐怖が勝って目を開けることができない。
ザッ、と地面と何かが擦れる音がしてカホは肩をビクッと跳ねさせた。
誰か、いる
それがアーサーなのか、それとも違う人なのか、
カホをまた別の恐怖が襲った。
「おい、大丈夫か」
カホの耳に届いたその声を、カホは理解できなかった。
恐怖に侵されていた、というのもある。
でもそれ以上に、信じられなかったから。
その声を聞いて浮かんだ人が、ここにいるはずがないと。
「もう目を開けても平気だ。奴はそこで伸びてる」
再び聞こえた声は、やはりカホが想像した人のもので
カホは恐る恐る目を開いた。
涙で歪んだ視界に、また来て欲しいと背中を見送った彼の姿。
「どうして…」
ありがとうございます、そう言わなきゃいけないのにカホの口から出てきたのは彼がなぜここに居るのか、という疑問を示す言葉。
「隣に座っていたこいつの様子がおかしかったからな、何か仕出かすんじゃないかと思って出て行った後を見張ってたんだ。してる事はこいつと変わらないかもしれないが…、結局嫌な予感が当たってしまったからな」
どこか怪我してないか、と赤井はカホに尋ねた。
カホはその声に、言葉に緊張と恐怖の糸がプツンと切れた。
「…っ…うっ…うぅぁ…あぁぁ」
カホはその場にしゃがみこんで泣き喚いた。
溜まっていた感情が溢れ出したように、途中でむせ返ってもカホは泣き続けた。
「うぅっ…あ…、ありがと…っ…ございますっ」
涙ながらに絞り出したその言葉を赤井はちゃんと聞き取った。