第25章 はじまりは小さなカフェで
味わったことの無い胸のざわめき。
得体の知れない今の自分の気持ちを赤井は気味悪く思った。
そんな時、カフェの扉が開いた。
「いらっしゃいませー!」
「あ~良かった。今カウンター席って空いてる?」
彼女の声の後に聞こえたその声は、赤井の耳にも届いた。
「?はい、空いてますよ。ご案内しましょうか?」
「是非そうしてくれると助かるわ」
少しして赤井は隣の席に人の気配を感じた。
それが誰かなんてわざわざ確認しなくても分かった。
「アイスコーヒー1つね!」
「かしこまりました!」
厨房にいる彼女は笑顔で注文を受け取るとすぐさま作業に取りかかる。
「あれ?もしかして君、赤井秀一君?」
その声に赤井は目線をゆっくりと声の方に向けた。
「あ、やっぱり!俺の事分かる?アーサーって言うんだけど同じ講義取ってて」
「ああ、知ってる」
「いや~、まさかこんな所で会うと思ってなかったわ。あ、秀一って呼んでいい?俺のこともアーサーでいいからさ!」
「別に構わん」
「秀一って大学じゃあ有名だからさ、中々無闇に話しかけられなかったけど、いやもっと早く話しかけとけば良かった」
赤井はアーサーに最小限の受け答えしかしなかった。アーサーに自分がどんな印象で映ろうがどうでもよかった。
しかし当の本人はそんな赤井の様子を気にかけるかともなく勝手に話を進めていく。
「もしかしてここのカフェって前から結構来てたりする?俺最近初めて来てさ、それはもう気に入っちゃって。コーヒーの味もいいけどさ、それよりも…」
アーサーは視線を厨房にいる彼女に向けた。
真剣にコーヒーをグラスに注ぐ彼女はアーサーの視線に気づかない。
「お待たせしました。アイスコーヒーです」
「ありがとう~」
アーサーは上機嫌でアイスコーヒーを受け取る。
二三口飲んだ所でアーサーは顔を上げた。
「ねえねえ、君なんて言うの?」
「私、ですか?」
「君以外にいないでしょ、それで、名前は?」
突然のアーサーの質問に少し困惑しながら彼女は答えた。
「カホ、です」
「カホちゃんね!いやぁ、可愛い名前だね!」
声高にそう言うアーサーに対して彼女、カホはぎこちない笑顔を浮かべた。
普段柔らかな笑顔を向けるカホしか見たことの無い赤井は、彼女のこんなに硬い表情を初めて見た。