第25章 はじまりは小さなカフェで

赤井もアーサーの噂はよく耳にしていた。
だがそんな噂を聞かなくても、普段からアーサーは人目を気にせずに周りの友人と女の話をしていた。その内容も昨日抱いた女はどうだったとか、ゲームのように次は誰を落とすだとか、そんな下劣な話ばかりだ。

赤井は元からアーサーにいい印象は抱いていなかったが、先程の発言で赤井の中でのアーサーの評価はより一層下がった。

アーサーの発言を聞いて、赤井の頭には1人の少女の顔が浮かんだ。
彼女がいつもあの店で働いているとは限らないが、赤井が訪れる時は毎回彼女がいたため自然と想像したのは彼女だった。

赤井は久しぶりに虫唾が走るような、そんな強い不快感を抱いた。

人それぞれ店に通う理由は自由だが、そんな腐った目的であの店に足を運ぶ奴がいることを好ましいとは思えなかった。

それに彼女に対してアーサーの扱いが軽率なことも赤井は許せなかった。
普段の彼女の働く姿を見ていた分、あんな奴にそれを邪魔されて欲しくなかった。


未だに彼女の事を友人に伝えているアーサーを横目に赤井は足の向きを元に戻した。





大学を出てすっかり覚えた道順を辿る。
しばらくして目的の場所が視界に入った。

もちろん自分の要望のためでもあったが、それ以上に今日はここを訪れなければいけないと言う使命感が赤井にはあった。


｢いらっしゃいませー！｣


店に入ると同時に耳に聞こえたその声。
赤井はどこかでその声が聞こえるのを期待していたのかもしれない。

席に座った訳でもなく、コーヒーを飲んだ訳でもないのに赤井の胸はなぜか満足感を覚えていた。


｢お久しぶり？なんですかね、ここ最近お見かけしなかったので、また来て下さるのかと少し気になってたんですよ｣

良かった、と赤井の目の前で彼女は微笑んだ。

その表情に赤井は少し胸がキュッと苦しくなるような、そんな感触を覚えた。それは赤井には初めての経験だった。
なぜ今胸がこんなに掴まれるように苦しくなったのか赤井には分からなかった。

赤井の前に立っている彼女は赤井の顔がなんだか神妙な面持ちになっているのに気づいて、声をかけるタイミングを逃してしまった。

｢あ、あの…｣
｢なんだ？｣
｢お席をご案内しようかと思ったのですが、何やら悩んでいるようでしたので、｣
｢ああ、すまない。そんな大したことじゃないんだ。案内してくれ｣