第25章 はじまりは小さなカフェで
それに彼女の容姿は美しかった。
赤井は日本人の顔立ちをよく知っている。だからこそ彼女は日本人の中でも言わば美人の類に入るだろうと思った。
けれど彼女がニコッと笑うとどこか幼さを感じさせ、それがまた周りの視線を引き付けた。
彼女の容姿は正直赤井の好みであった。
けれど恋愛に興味が失せている赤井はただそう思うだけで、今は彼女よりも目の前のコーヒーに関心があった。
コーヒーを飲み干すと赤井は席を立った。
「ありがとうございましたー!」
彼女の声が赤井の背中に響く。
赤井は息抜きのような、寛ぎを与えてくれる場所を見つけ、ただの大学からの帰り道がこの数日で楽しみに変わった。
お店の雰囲気、インテリア、コーヒー…
赤井がその店を酷く気に入った理由。
その1つにいつも赤井を出迎えてくれる彼女の声が浮かんだことをこの時赤井はまだ自分で気づいていなかった。
それから数日は大量に出された課題のため、赤井はカフェに足を運ぶことは出来なかった。
と言っても課題の期限は1ヶ月ほどある。
しかし赤井は出来るだけ早めに課題を終わらせて残った時間で別の勉強をしたり、長年の赤井の希望であるFBI捜査官になるための体力づくりやトレーニングに力を注ぎたかった。
一週間足らずで山積みになっていた課題は消えた。
その間、赤井は何度もあの店を思い浮かべた。
課題がいつもより進んだのはその気持ちが強かっただろうと、あまりにも単純すぎるやる気の根源に赤井は思わず失笑した。
課題を終わらせた次の日、講義が終わった赤井はいつものように無言で席を立ち教室を出ていこうとした。
が、どこからか聞こえてきた声にその足は止まった。
「──っていうカフェの店員にすごく俺好みの女がいたんだよ。まじであれは久しぶりにいい女だったわ。今日も会いに行ってあわよくば連絡先でもゲットしてくるつもり」
赤井の耳に聞こえた男の声。
その男の口から出たカフェの名前は赤井もよく知っているものだった。
赤井はその声のした方へ振り向く。
「あれは絶対落とすわ」
何度も染め直したであろう傷んだ金髪。両耳に大量に開けられたピアスの穴。
赤井の視線の先にいたのは女子からの人気が高いアーサーだった。彼は顔立ちは整っておりいつも何人かの女子が彼の周りを取り巻いているが、実際は女遊びが激しくすぐに手を出すことでよく知られていた。