第24章 "彼"
「なら…秀一さんが私と別れたのは…」
「そうね、カホの命を守るため。自分が悪者になってまで貴方を自分から遠ざけたかったのよ」
「あ…そんな…私はっ…」
カホは両目から涙を零した。
彼の決断を知らずに自分は彼を忘れようとしていた。
彼にもう会えないなら、と。
辛かったのは私じゃなくて、彼の方なのに
そんなことも分からずに
私は…私は…
別の人を好きになってしまった。
「ごめっ…なさい…私…最低だ…」
「カホは悪くないのよ、だからそんな…」
「違うんです…私…秀一さんに…合わせる顔がない…!」
「そんなっ…どうして、カホはシュウに会ってもいいのよ。それを望むなら私がシュウに頼むことだってできるわ」
カホはジョディの言葉に首を横に振った。
「ジョディ…さん。私…分からない…。どうやったら人に迷惑かけずに生きられるのか、…っ…私最近ずっと思ってた。大切な人を傷つけて、誰かの重荷になって…私は何のためにここに居るんだろうって…」
「カホ…!ちょっと何を、言ってるの」
「何年も、私…秀一さんに酷いことしてたの…。謝りきれないほど最低なことしてる、今も…秀一さんの想いを知らずに…」
「シュウの気持ちが分からなかったのは仕方ないことよ、だからそんなに自分を責めないで、」
カホはボロボロに泣いた。
ジョディは焦っていた。
カホが真実を知って泣いてしまうとは思っていたがこんなに苦しそうに、謝りながら泣くとは思っていなかったから。
「カホ、貴方どうしてそんなに…」
ジョディの声はカホに届いてなかった。
カホはもう消えてしまいたくなった。
何人もの人を自分のせいで苦しめたらいいのだろうと。
秀一さんの決断を知らずに自分は他人に抱かれ、その人を求めた。
秀一さんも別の人と一緒になるなら自分も別の人を好きになってもいいんじゃないかと安室さんの優しさに漬け込んで彼に好意を抱いた。
何度も自分を助けてくれて好きだと言ってくれた昴さんに付き合っている人がいるから家を出て行くと言った。
安室さんが陰で疲れているのも気づかずに自分は彼の家に何もせずに居座って彼に気を遣わせている。
─私はいない方がいい─
頭の中でそんな言葉が浮かんだ。