第24章 "彼"
カホはしばらくの間ずっと泣いていた。
ジョディもさすがにカホの異変に気づき、その理由を問おうとしてもカホはごめんなさい…ごめんなさい…と繰り返すだけで肝心な所は分からなかった。
ジョディがハンカチでカホの涙を拭く。
すぐにじんわりと濡れていくハンカチ。
カホの目は赤くなっており誰が見ても泣いたと分かるほどに腫れている。
「すみません…ジョディさん」
カホはハンカチを当ててくれているジョディにそう言った。
けれどジョディが言って欲しいのはそんな言葉じゃなかった。
カホが心に抱え込んでるものを自分に教えて欲しかった。
けれど目の前のカホはそれをしつこく聞き出せる状況でもなかった。
テーブルに置かれた2人のコーヒーは、氷が溶けてすっかり薄くなってしまった。
「ほんとにいいの?カホを何がそんなに苦しめているのか私には分からない。言ってくれないと分からない。でも、傍にただ寄り添うことだって出来るのよ、」
「ありがとうございます…。ジョディさんの気持ちは凄く嬉しいですけど、今は…1人になる時間が欲しいです」
「カホがそれを望むなら私は貴方に従うまでだけど、抱え込めなくなったら、いやその前に必ず知らせなさい。すぐに飛んでいくから、いいわね?」
「はい、ありがとうございます。せっかく誘って下さったのに、ごめんなさい…こんな、空気を壊すようなこと、」
「私の前でまで強がる必要はないわ。泣きたい時は泣きなさい。カホが無理して笑ってる時の方が、私は辛いわ」
薄くなったコーヒーを飲んだ二人はレストランを後にした。この後どこかに遊びに行ける雰囲気でも無く、カホは今日はこれでお開きにしましょう、と言った。ジョディはカホに何度も尋ねた。本当に自分がいなくていいのか、1人で大丈夫なのか、と。カホはそれに笑って大丈夫だと言うだけだった。ジョディはそれが無理して笑ってることぐらいすぐに分かった。
けれど今のカホにどんなに自分が理由を尋ねてもカホは答えてくれないだろうと思った。
成長して大人びて逞しくなった彼女。
けれど遠ざかっていく彼女の背中は、なんだか悲しそうに見えた。