第24章 "彼"
「あなた達が別れる数週間前にね、シュウはある任務が与えられたのよ。簡単に言うと潜入捜査。ある組織の一員として戸籍まで作って全くの別人として潜入する。それも普通の組織なんかじゃない、暗殺から麻薬の密売まで、そうね、普通じゃ考えられないぐらい残酷な事もするわ」
ジョディは周りには聞こえない程度、しかしカホにはちゃんと伝わるように彼女の目を見ながら話し始めた。
一般人には伝えてはいけないとされる情報。
しかしそれでもジョディはカホには理解して欲しかったのだ。
2人をいつも見守ってきたジョディだからこそ、2人の別れ方には不満を持ち続けていた。
ジョディが赤井からカホと別れたと聞いたのは移動途中の車内だった。
「…嘘、でしょ?」
「聞こえなかったのか。俺はカホと別れた」
「そんなの、カホにはなんて言ったの?そんな急に言われてあの子も納得出来るはずがないわ!」
「好きな女が出来た、そう言った」
「なっ…シュウ!貴方馬鹿なの?そんなのカホがどんなに傷ついたか」
「これぐらい言わないとあいつも納得出来ないだろう。時間が無かったんだ、ちゃんと別れてもらうにはこれが最善だと思った」
「そんな…シュウはそれでいいの?カホのこと好きなんでしょう?なのにそんな最後なんて、」
「好きだからさ。
カホには何も危害は与えたくないんだ。あいつは一般人だ。こんな黒で染まった組織なんかに関わらせたくない。普通に平和な日々を過ごして欲しい」
「そうだとしても、」
「ならお前は自分が死んだ時に恋人まで道連れにする気か?俺がもしNOCだとバレたらやつらはカホの事まで調べるだろう。組織にとって不利だと思われたならば手段を選ばない連中だ。間違いなくカホは消される」
「そんな…」
「俺だって悩んで出した結果だ。軽い気持ちで決めた覚悟じゃない。カホを傷つけることを承知でカホの安全を取った」
「…カホが別の人と一緒になるのを、シュウは祝福できる?」
「はは、今その質問はよしてくれ。なるべく考えないようにしているんだ、それは」
そう言った赤井の顔は普段の自信気な表情ではなかった。
ジョディはその表情を見て胸が締め付けられるように苦しかった。