第24章 "彼"
「ごめんなさい、私も別れた後に何も連絡しなくて」
「いいのよ、そんなのカホが謝ることじゃないわ」
「秀一さ…あ、えっと…赤井さんは、」
「そのままでいいわ、呼びづらいでしょ?そっちだと」
「はい…その、秀一さんは元気ですか?」
「シュウは…そうね、元気だったわ」
「だった…?」
「これを言うと長くなっちゃうんだけどね、私もつい最近再会したのよシュウに。と言ってもカホみたいに何年も会ってないわけじゃなかったんだけどね」
「そうなんですか…でも良かったです。元気なら」
「ねぇカホ、貴方はまだ恨んでる?シュウのこと」
「どうしてですか?」
「シュウから聞いたのよ、あなた達が別れた時のこと。その、随分酷い言い方をされたんでしょう?」
「酷い言い方…。確かにそうかもしれませんけど、事実をはっきり言われたというか、まぁ今となっては秀一さんらしいというか…」
カホはぎこちない笑みを浮かべた。
その時の事を思い出して、自分は魅力の無い人間だったのだと思った。
「その事なんだけど…今更言っても遅すぎるかもしれないけれど、」
「?」
「それが…シュウがカホのためについた嘘だったとしたら、どうする?」
「…嘘?」
「そう、カホより好きな人が出来たとか、それも嘘だったとしたら…」
「そ、そんなこと…あるわけないです」
カホはジョディの言葉に驚きと焦りを隠せなかった。
自分はあの時の彼の言葉を信じ込んで彼への想いを必死に消したのだ。
別の人と一緒になろうとしているなら自分にはそれを邪魔することは出来ないと。
それが、彼の本音じゃなかったと言うの?
そんなの、そんなの…
「信じられないかもしれないけど、やっぱり私はカホに黙っておくことはできない。カホの中でシュウとの記憶がそれで終わったままって言うのは、残酷過ぎると思うのよ」
「…」
カホは何も言えなかった。
今まで積み上げてきた何かが壊れてしまいそうだった。
ジョディの口から聞く真実が今の自分を変えてしまうんじゃないか、と。
何もしてないのに心拍数が上がっていた。
呼吸も、なんだか苦しかった。
体が真実を聞くのを拒否しているかのような、そんな気分。
ジョディの唇が開くのを見て、カホは思わず息を飲んだ。