第24章 "彼"
それから数日間、安室さんは家に帰ってこなかった。
1人で起きて朝ご飯を食べて仕事に出かける。
家に帰れば簡単な夕食、コンビニで買ってくることもあったけれどそれを食べてお風呂に入る。
玄関の扉がいつ開くのか、それを心のどこかで期待した。
けれどその音は聞こえることは無かった。
最初のうちは、いってきます、ただいまと小さく言っていたがそれもしなくなった。
なんだかこの数日間は気が重かった。
自分がここに帰ってくるたびに果たしてこれは正しいのか、と。
自分が帰るべき場所なのだろうか、と。
彼は恐らく家にも帰って来れないほど忙しい。
なのにこの家にほぼ居候のような自分は仕事を終えて彼の家に帰っては眠りにつく。
前に住んでいた時も同じ状況はあったはずなのに、
どうして今はこんなにも思い悩むんだろう。
監視、ではないからなのかな
前は監視だったから自分はここにいるのだと思えたけれど今自分を縛っているものは何一つない。
安室さんはここにいて欲しいと言うが、この前彼と学校で会った時にそれは彼にとって負担になっているんじゃないかと感じた。
そしたら本当に自分はなんのためにここに住む必要があるんだろう
無理をさせていたのか
気を遣わせてしまっていたのか
私がいて、安室さんは何のメリットがあるの?
もっと気楽に考えられればどんなにいいか。
好きな人と同じ家で暮らせる
単純にそう思えば今の生活は華やかなもの。
監視なんて何にもない、好きな人にここに居てくれていいと言われているんだから。
でもそれは彼を普通に愛せたらのこと
彼は好きになってはいけない人だから
簡単に信じてはいけない人だから
そんな幸せな考え、出来るはずがない
カホは安室のいない数日間、自分の存在する意味を頭で考え続けていた。
カホの性格と言えばそれまでだが、物事を深く考えすぎてしまう癖がある。
それに加えて、カホ自身はあまり気づいてないが彼女は「居場所」に対する強い執着がある。
自分の存在価値が分からなければ、自分に居場所が無いと思い込んでしまうのだ。
だから安室の目的が分からない今の状況はカホにとって居場所が不安定とも言えた。
でもその目的は安室本人しか分からず、考えても答えは出ない。
カホはひたすら思い悩むだけだった。