第24章 "彼"
ここ最近はそんなことを考えることが多くなった。
でも考えてもそれを彼に直接聞く勇気は持っていないので結局答えは分からない。
考えてはやめて、また考えて、その繰り返し。
でも今は彼に何も聞かずに過ごそう。
彼に、しつこくしないように、嫌われないように
彼の表情を伺って…
あ、これも前と同じだな、と気づいて
自分の存在価値が分からないまま生活するというのは心地よいものではないけれど
それでも多分、安室さんと居たい、そう思っている自分がいるから
彼の前ではなるべく笑って、頷いて
仕事で身についた笑顔を、家の中でまで作って
そんな日々がずっと続いていた。
そんな中、部長に呼ばれてある仕事を頼まれた。
「杯戸小学校、ですか?」
「あぁ、滅多に行くことは無いんだが急遽来てくれと頼まれてね。七瀬さんに行ってもらいたんだが、いいかね?」
「分かりました。何時ごろ訪問すれば良いのでしょうか」
「生徒が帰った後に来て欲しい、って言ってたから夕方頃でいいと思うよ」
「分かりました」
この時期、風邪で保健室に休みに来る生徒が多いとのこと。そのため在庫の補充と新たな薬をいくつか頼みたいと言うことだった。
日が暮れてきた頃、私は車を杯戸小学校へ走らせた。
玄関の窓口で名刺を見せて中に入る。
自分のいた学校ではないとしてもこの雰囲気を味わうのは久しぶりだった。
無駄に周りを見渡しながら保健室へと向かう。
角を曲がったその時、急に目の前に人の影が現れそれを避けきれずに衝突してしまった。
「きゃ…あ、ごめんなさい」
「こちらこそごめんなさい、ちゃんと見てなかったわ…ってカホ…?」
「え?」
懐かしい声、名前の呼び方。
その声に思わず顔を向けるとそこには数年ぶりに見る友人の姿。
「…ジョディさん?」
「貴方!やっぱり…、カホ!カホよね!」
「そ、そうです…お久しぶりです」
「もう…!ずっと会いたかったのよ!あ、でもごめんなさい今は少し急いでて、貴方に…話したい事いっぱいあるのよ…」
「私も、ジョディさんに聞きたい事があります、是非、今度また」
「そうね、また連絡するわね!」
数年ぶりに会ったジョディさんは何だか酷く慌てた様子だった。
走り去っていく背中を見て、ふと横にコナン君の背中も見えた。