第24章 "彼"
昴さんの家を去って数日が過ぎた。
安室さんの家に戻っていつかのように再び2人で暮らす毎日。
彼は家に戻って来ないことも多く、いつの間にか帰ってきていて朝ご飯だけ作られている、なんてこともある。
でもそれは前に住んでいた時も普通にあった。
以前と変わらない生活。
それはただ一つを除いて。
安室さんは私が昴さんの家から戻ってきてから一切私に触れなくなった。
セックスはもちろん、キスすることも無ければ手を繋ぐこともなくなった。
この前も私が何も無い所で躓いてそれを安室さんが受け止めてくれて
ありがとうございます、と顔を上げるとそこには至近距離に彼の顔があった。
思わずドキッとして安室さんも少し驚いた顔をして一瞬そんな雰囲気が周りに漂った。
でも彼は何もしなかった。
気をつけて下さいね、と言ってそのまま離れた。
して欲しかった、とは言わない。
けれど大体このような状況になったら彼は私に何かしら触れてきたのだ。
だから今回もこのまま流されてしまうのだろうか、と思っていた。
本来はこれでいいはず。
彼に抱かれたりキスをされては自分の想いは募るばかり。
それが無くなったのだから私は彼を意識することは少なくなる。
どうして、
なんて思ってはいけない。
あれが普通になっては自分には危険なのだ。
彼に触れてもらえることが普通なのだとどこかで思って今まで過ごしていた自分に今になって気づいた。
何も話さない訳じゃない。
彼が家にいる時は普通に世間話もするし夕食のメニューを話し合ったりもする。
それはものすごく自然だし私を避けているなんてこともない。
それに彼は言ってくるのだ。
好きです、と。
そんなはずない
そう思っていつもそれを受け流している。
ありがとうございます
そう言って微笑む。
それを言うと彼は何も言ってこない。
多分私がそういう雰囲気を作ってしまっているのかもしれないけれど。
安室さんと夕食の時間に向き合って2人で話をして
その話を聞きながら私は頭の中では別の事を考えていて
どうして触れてこないの
笑って話す彼に私も笑い返して
好きと言ってくる彼が余計分からなくなった。
監視でも性欲の処理のためでもないなら
私はどうしてここにいるんだろう
彼の、なんなんだろう