第23章 信用できる人
でも、昴さんがどれほど私を愛してくれて
優しく触れてくれたとしても
今の私は昴さんを好きになることはきっと無い。
それはどこかで分かっていた。
だから安室さんの家に住む、と言うわけではないけれど。
私自身もどうしたらいいのか分からない。
安室さんにもっとちゃんと抵抗して一人で暮らすと言った方が良かったのかもしれない。
実際それは出来たことだし、私の力不足でもある。
けれど私は彼の言葉に頷いた。
私の中には安室透という男が大きく存在している。
彼氏でも友達でもなんでもない彼が。
勝手に傷ついて落ち込んで、それでも彼に優しくされたら私は喜んでいるのだ。
だから半ば誘拐のようなことをされて散々に抱かれたとしても彼がここに住め、と言われたら最終的にはそれを了承した。
私はこんな単純で馬鹿な女なのだ。
「私にとって昴さんは1番信用できる人なんです。それは…安室さんよりも」
「…」
「でもそう思いながら、昴さんの気持ちも分かっていながら私は安室さんと付き合うことにした。こんな最低な女なんです、私は」
「…」
「いつも私が困っていた時は助けてくれたのに、私は昴さんにこんな形でそれを返そうとしてる。何にもあげられてない、感謝も出来ていない。私には貴方に近づく資格も触れる資格もない…」
「カホさん」
名前を呼ばれたと思えばガバッと彼に身体を抱き締められた。
予想もしていなかったその行動に、私の手は行き場をなくした。
「ならそんなこと言われてもまだカホさんを愛してる私はどうすればいいんですか」
そんな小さな彼の声はしっかりと私に届いた。
抱き締める力が強くなって、彼の鼓動が聞こえて
「カホさんが安室さんと付き合ってるとしても私の思いは変わりません。多分それは、この先もです」
「…っ」
「どうして…どうして彼なんだ」
その言葉が、口調が、"彼"に似ていた。
そう言えば昴さんはあの人と重ねてしまうことが多かった、そんなことを今思い出して
「ごめんなさいっ…」
また私の方が泣いて、多分泣きたいのは私の方じゃないのに
それから昴さんはずっと私を抱き締めていた。
私は彼に手を回すことは出来なかった。
ただただ一定に刻む彼の心臓の音を静かに感じて、必死に涙を止めた。