第23章 信用できる人
「…その相手は誰ですか」
上から降ってきた彼の言葉に思わずゴクッと息を飲んだ。
「ついこの前までカホさんそんな素振り無かったじゃないですか。こんな短期間で急にそんな話になるんですか」
「…」
「もしかして…私に抱かれている時もカホさんはその人とお付き合いをなさっていたんですか」
「違う!そんなこと…するはずない」
「ならどうしてですか。あまりに急すぎませんか」
「ごめんなさい…」
「…さっきからそればっかですね」
いつもの温厚な昴さんの声じゃなくて
少し低くて、威圧感があって追い詰められているようなそんな気分。
最低だ
昴さんに私は何をしてあげたんだろう
迷惑しか掛けてない
最後までこんな嘘ついて、彼を苛立たせて
ホントに…幻滅されにいってるようなもん
「…カホさん」
その声にも応えられずに黙っていると頬を彼の大きな手で包まれてグイッと顔を上げさせられて
目の前の彼の目はやっぱり苛立ちが現れていて
その姿は初めて見る表情
ああ、本当に取り返しの出来ないことをしてしまった
そう思った。
「誰ですか」
落とされたその言葉は今までで1番低いもので
その答えに傷つくのは彼なのに、言おうとしている私の心が苦しくなって
その名前を言うことが、辛くて
叶わないと望んでいたそれをこんな形で自分の口から言うのが嫌で
どれだけ自分勝手なんだと彼の名前を呼ぶ前に思った。
「…安室さん…です」
ちゃんと言えたのか分からない。
自分の耳にその言葉が届いていたのかも分からない。
唇が震えて、形が彼の名前に動いたのだけは分かった。
けれど目の前の彼の目が大きく見開かれていくのを見て、それは彼に聞こえたのだと分かって
やっぱり彼の目はあの人に似てる
そんなこと、こんな状況で思うことじゃないのに
「ごめんなさい…本当にごめんなさい」
彼がこんなにも驚いて、言葉を詰まらせて
それに私は謝ることしかできない
しばらくして彼から発せられた言葉は
どうして
「いつから…付き合ってたんですか」
「…最近、です」
「カホさんと安室さんにそんな関わりなんてありましたっけ」
「少しだけ…」
「本当に…好きなんですか」
「…好きですよ」
なんならこれも嘘が良かった。
彼を好きなことも、全部。