第23章 信用できる人
鍵を掴んだ手はテーブルと彼の手に挟まれたまま。
つまりこの状態のまま彼にキスをしろと言うことなんだろう
「少し…屈んで下さい」
そう言うと彼はその言葉に従って身体を屈ませた。
グッと端正な彼の顔が近づいて思わず後ずさりした。
それに気づいた彼が掴んでいた手に力を加えた。
彼の瞳がじっと私の目を見つめて、私がキスするのを待っているかのように
「…目、瞑っててくれませんか…」
「開けたままではだめですか?」
「それは、恥ずかしいので…」
彼は軽く微笑んでゆっくりと目を閉じた。
本当に綺麗な顔だなと思わず見とれてしまって
睫毛も長いし肌も女の私より綺麗かもしれない
ふとまじまじと見すぎていたことに気づいて本来の目的は鍵を渡してもらうことなのだと思い出す。
自分の中で気持ちを落ち着かせてゆっくりと彼に近づいた。
一瞬、柔らかな感触が自分の唇に触れた。
顔を離すと彼の目が開けられて多い瞳を覗かせた。
「これで終わりですか?」
早く鍵を渡して欲しい、そう思っていた私に彼は不満そうな顔をして
「ちゃんとキスしましたよ」
「僕がいつもカホさんにしていたキスはこんな触れるだけのものでしたか?」
「でもキスはキスじゃない」
「僕はこんなので満足できません」
つまり安室さんは今のようなキスじゃなくて…今日の朝みたいなのをしろと
そんなの
「…できない」
「ならこの鍵は渡せませんね」
そう言って彼は私の手をこじ開けようとした。
「ま、待って!」
「だって出来ないんでしょう?」
「する、するから!」
思わず焦って言ってしまった言葉。
今更後悔しても既に遅かった。
「なら早く、」
そう言ってまた彼は顔を至近距離に近づけてきた。
さっきから心臓の音がうるさい。
静まれと思ってもそれは激しさを増すばかり。
「やり方、分かりますよね?」
鼻がくっつきそうな距離でそう言われて
多分自分の顔は赤くなってるんだろうと思った。
色んな思いがあったけどもうどうにでもなれと目を瞑っていない彼に口付けた。
さっきのような一瞬の口付けじゃなくて自分のをちゃんと押し付けた。
上唇を自分の唇で挟んで彼の形を確かめるように何度も口付けた。
でも彼はそれを望んでいる訳じゃない。
ぎこちない動きで私は彼の口内に自分の舌を入れた。