第22章 静寂
彼の言葉に納得いくはずもない。
両手塞がれたままどうやって生活しろと言うの?
逃げる前に日常生活に負担がかかるんだけど
「大丈夫ですよ、人間両手塞がれてても大抵のことはできますから」
目の前の彼は笑ってそう言った。
好きなはずなのに今の安室さんは少し怖くて
一緒に住んでた時は彼が人を殺したと分かっててもむしろ彼に安心できるぐらいだったのに
何を考えてるのか分からない
私の存在価値が分からない
彼にとって私は何なのか
ここまでする意味は何か
安室さん
貴方の目には私はどう映ってるの?
そう聞けたらどんなに楽なことか。
「いつまで…私はここにいなきゃいけないんですか」
「僕と一緒にいるのは嫌ですか?」
「嫌というか、私は今昴さんの家に住んでいるわけですし。このまま彼に心配かけさせることもできません」
「カホさんが沖矢昴の家に住まなければいけない理由はなんですか」
「理由、なんて…そんなのはないですけど…」
「ならそれが僕の家でもいいわけですよね」
「それこそ理由がありません。安室さんの家に私が住む理由が」
「カホさんが傍にいて欲しい。これだけじゃだめでしょうか」
「…っ」
目の前の安室さんは決してふざけて言ってるようには見えなくて
「昨日あんなことしておいて言える立場じゃないですが、僕はカホさんの事が好きです。今まで出会った誰よりも」
青い瞳がしっかり私の瞳を捕らえた。
今は昨日とは違う。
冷静に考えられる状態にある。
だから彼が何を言っているのかそれはちゃんと理解できて
それでも私はまだ彼を信じきれなかった。
自分がその時どんな表情をしていたのか分からない。
彼が私の顔を見て、少し眉を下げて悲しそうにして
「どうしたら…カホさんに分かって貰えるんでしょうか…」
そう言いながら彼は私の手を取って自分の心臓に当てさせた。
そこはトクントクンと脈を打っていて
「出会い方さえ違っていれば、もっと別の関係になれたかもしれない。カホさんをもっと大事に出来たかもしれない。この2年間で僕がカホさんに抱かせてしまった不安と裏切りは決してすぐに消えるものではないです。僕が信じられないのも…十分に分かります」
彼はそう言い終わって私の手を上からぎゅっと握った。