第3章 居場所
私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
スカートを見るとまだ少しドロっとした精液が残っていた。
そのまま近くの交番に駆け込み、先ほどの出来事を話した。
スカートは警察へと提出した。
家に帰ってすぐお風呂に入って全身を何度も洗った。いつまでもあの男に見られている気がして気持ち悪かった。
口を何度もすすいだ。タオルでゴシゴシと拭った。摩擦で痛くても顔が赤くなってもずっと拭き続けた。
あの手の感触がふと蘇る。
急に吐き気が襲ってきてトイレへ駆け込んだ。
次の日の朝、警察から連絡が来て昨日の男が捕まったと伝えられた。賠償請求がどうとか言っていたが、正直そんなものいらなかった。その男から渡されるものは何も受け取りたくなかった。
あの事故の後、しばらくたって警察署へ呼ばれた。そこにいたのは丁度私の両親と同じぐらいの年齢の夫婦だった。
「今回は…っ、うちの息子が、大変、申し訳ないことをしました。謝っても許されることではないと思っていますが…」
奥さんの方がそう言うと旦那さんと一緒に深々と頭を下げた。
あの車の事故は黒のワンボックス車に乗っていた男性の飲酒運転によるものだった。救急車に運ばれていった男性がそうだったらしい。
そんな奴に私のお父さんとお母さんは殺されたのか
その事実を知った時素直にそう思った。
でも彼が罪を償ったところで両親が戻ってくる訳では無い。
そう思うと怒る気力もなくなった。
だから今こうやって目の前で彼の両親が頭を下げても私は憎いとも思えなかった。実際私の両親を殺したのは彼らではないのだから。
「あの、これほんの少しですが、受け取ってもらえませんか、」
旦那の方が茶封筒を私の前に差し出した。それはかなりの厚みがあることが分る。
「いえ、大丈夫です。お金が欲しいわけではないですし」
「足りないのならいくらでも払いますから…っ!じゃないと私たちはあなたに罪を償えません…!」
「別に罪を償って欲しいわけではないです」
「え…」
「私はあなた方の事を憎いとは思っていません。息子さんのことは憎いと思っていますが、例え息子さんが自分の命を差し出したとしてもそれは私にとって何も価値はありません。お金だってそうです。貰ったところで私の両親の命は買えませんから」
私がそう言うと彼らは黙り込んでしまった。