第3章 居場所
その後、引き止めてくれていた青年は手を離し
「痛かったですよね…すいません…
その命、大切にして下さいね」
と言って去っていった。
私は事故の状況を説明するために警察に呼ばれ、その後遺体の確認をした。
2人の遺体はどちらも真っ黒で見分けがつくものではなかった。髪が長いのがお母さん、だというのは分かった。
「今日はお忙しい中ありがとうございます」
お父さん、お母さんの両親にそう告げた。車椅子で私の元へ近づくと皺だらけの手で私の両手をぎゅっと包み込んでくれた。
「辛かったねぇ…」
目の前の祖母はそう告げた。私はその時どんな顔をしていたのだろうか。
「これからは甘えていられませんね」
通夜、告別式、出棺が終わり、親戚との会食を終えた。
普段食べることのない豪華な食事だったけれど、正直何の美味しさも分からなかった。時々親戚の方が声をかけに来てくれた。張り付いた笑顔で会話をした。
「うちに来るかい?」
何人にもそう言われた。そう思ってくれるだけ嬉しかったが今の職場も離れる訳には行かないし、一人暮らしができない歳ではない。だから全てお断りさせてもらった。
喪服を来て1人歩く帰り道。実家までの距離がとてつもなく遠く感じた。
1人ぼっちになってしまった
真っ暗な空に浮かぶ月を見てそう思った。
この2日間は泣かなかった。悲しかったけど泣かなかった。と言うよりは泣き方を忘れてしまったような気もした。
「ただいまー」
家はシーンと静まり帰っている。こんなにも生活感が溢れているのに。あの日お父さんが読んでた新聞も机に置かれたままだ。
一人暮らしには広すぎるな
私はその後家を売って一人暮らしをするためのアパートを借りた。職場になるべく近いところにした。前の家にあった両親の家具や私物は最小限にして持ってきた。
数日たって実家があった場所に行ったらすでに売れていた。
不動産屋の人はこんなにも早く売れたことに喜んでいた。
これでよかったのだ
仕事では色々大変だったなと周りから声をかけられた。深山さんは今度飲みに行こう、と言ってくれて、課長は自分に出来ることがあったらなんでも言え、と言ってくれた。
ありがとうございます、そう笑って言った。