第3章 居場所
目の前には黒々とした黒煙が空へと上がっている。
顔にはもわっと熱気の含んだ風が勢いよく当たった。
車からは炎が上がり、誰も白のワゴン車だとは分からないだろう。
─カホが生まれるからってパパが新しいの買おうって言ったのよ!普通子供が産まれるって聞いて買うとするのはおもちゃとか服とかでしょ?─
─別にいいじゃないか!何を自分の子供にプレゼントしようって親の勝手だろ?─
─カホが素直に育ってくれるように、って白い車にしたんだって、ふふ、名前じゃないのにね─
うあああああああっ…っ
叫んだ、声も枯れている、目の前の現実を受け入れられなかった。嗚咽も段々酷くなってくる。
その間も彼は私を離すことはしなかった。
今離したら私が両親の元へ行ってしまうと思ったのだろう。
どれくらいそうしていたのだろうか。
消防車とパトカー、救急車が到着して、すぐさま消火活動が始まった。救急車にふらふらと乗っていく若い男性がいた。
黒の車に乗っていた人か
助かったのか
なぜ、お父さんとお母さんは助からなかったんだろう。本来は私の両親も今頃救急車に乗って搬送されるはずではなかったのか。
けれど今彼らはまだあの車の中にいる。
私はその光景を呆然として見ていた。
「あの、ちょっとすいません」
ふと声をかけられ振り向くと警察手帳を手にした男性がこちらを見ていた。
「あの車に乗っていた人をご存知ですか?」
彼はゆっくりそう告げた。
大体の予想はついているのだろう。
「あの車は私の両親のもので、乗っていたのは私の両親でした。」