第20章 上司
二人の部下は風見に頭を下げそそくさと休憩室を後にした。
全く…
風見は二人の警戒心の無さにため息を漏らす。
しかしながら、風見は先程の二人の会話を思い出してさらに頭を悩ませた。
二人がそう思うのも、無理はないか
風見自身、休憩室の中から聞こえた会話は正直共感出来るところがあった。
最近の降谷を見れば誰しもその場にいる皆がそう思うに違いなかった。
最近の降谷さんの雰囲気はどうしたものか
降谷の雰囲気がガラッと変わったのは約1ヶ月前から。
普段から緊張感が漂い、厳しく部下に叱責することも珍しくはない降谷。
それでもなお、冷静な判断力と公安という職に対する責任感、またその姿勢など降谷の存在自体が部下にとっては尊敬であった。
それは風見にとっては人一倍強いもので、常に降谷の為に、降谷のようにと憧れ、日々誠意を払ってきた。
そんな風見でさえも最近の降谷は少し恐怖を覚えるほど漂う雰囲気が物々しいと感じていた。
なんとなくだがその理由に風見は勘づくものがあった。
それは七瀬カホという一人の女性の存在
降谷さんが珍しく皆の前で怒鳴った日
その前日の夜、降谷さんからかかってきた電話を自分はまだ忘れることが出来ない。
「すまない風見、こんな時間に」
「いえ、どうかなさったのですか」
「カホが家から出ていったんだ」
「は?えっと…それは、どういうことですか」
「俺がベルモットといた所に運悪く鉢合わせたんだ。そこで俺は彼女に酷い言葉を吐いた。ベルモットに興味を持たれないように、俺との関係が終わったような、そんな言葉を…。恐らくそれを鵜呑みにしたんだろう、家に急いで帰ったが既に彼女はいなかった」
「それは、つまり降谷さんの七瀬カホへの監視が終わったということですか」
「元々監視などしてないさ。元はどこかに消えてしまいそうな彼女を自分の傍に置いておきたいがために一緒に住まわせたんだからな」
「そうでしたね、すみません。それで、降谷さんは元の生活に戻るということでしょうか」
「…まあ、そういうことになるのか」
「分かりました。他に何かご要件はありますか」
「要件というか一つ風見に頼みがある」
「はい、なんでしょう」
「もしカホをどこかで見かけたら、その時は俺に連絡しろ」