第20章 上司
「…は?」
風見は降谷の言葉に思わず間抜けな声をあげた。
「えっと…七瀬カホに関してはもう終わったのではないのですか」
「ああ、だがとりあえず見つけたら連絡しろ。詳しくは調べなくていい、あくまで彼女は一般人だ。一応限度があるからな」
風見はもっと分からなくなった。
七瀬カホは一般人。
降谷さんもそれを分かっているはずなのに、どうしてまだ調べる必要があるのか。
言い方からして降谷さんは七瀬カホを探しているように聞こえる。
ならばそれは何のために…
「…分かりました」
風見は腑に落ちないまま降谷の言葉に返事をした。
電話を切った後も風見は1人で考えていた。
降谷が何を考えているのかを。
ちゃんとした理由も見つけられないまま時間だけが過ぎた。
そんな中ふと浮かんだ考え。
それはいくらなんでも馬鹿げていて風見は自分を自嘲する。
あの人に限ってそんな、ありえない…
その考えを風見は直ぐに否定した。
けれど色々と考えを巡らせた後で再び戻ってきたのはそこだった。
あくまで風見の勘にしかすぎない。
きっと本人に言ったら叱責を受けるぐらいの仮説。
いやでも、もしこの考えが正しいならば
降谷さんが未だに七瀬カホに執着する理由になる。
それにあまり詮索はするなという警告も。
風見がその考えに辿り着いた次の日の朝、警視庁公安部のフロアには降谷の怒鳴り声が響いた。
「何度言ったら分かるんだ…お前たちは普段何を考えてこの仕事をしているんだ。そもそも最近気が緩んでいるんじゃないのか、こんな初歩的なミスまでして。これでよく公安が務まるな」
入室した時から只ならぬ殺気を帯びていた降谷。
その異変に部下達は気づいていたがこうして怒鳴られた今、降谷は相当機嫌が悪く苛立っていると理解する。
風見も含め、部下たちは普段と違う荒々しい降谷の様子に怖気付いてさえいた。
周りの部下は降谷がフロアを出ていった後でヒソヒソと話をし始めた。
その中で風見は一人考えを巡らせる。
降谷さん、貴方はやはり…
七瀬カホに特別な感情を抱いているのではないですか
決してその風見の考えは誰かに伝わることはなかった。