第20章 上司
カホは怪訝な顔を浮かべながら会社へと向かった。
あの顔は絶対悪いとか思ってないな
というか本当に急がないと、
カホは歩く速度を上げた。
その様子を一人の男は真っ白な車の車内からじっと見ていた。
その男の青い瞳は急ぎめに歩くカホの姿を捉える。
彼女が工藤邸から出てきて今に至るまで決して目を逸らすことはなかった。
男はガリッと自身の爪を噛んだ。
「ふー、やっと終わったぜ」
「3日ぶりの家が待ち遠しいな」
同じ頃、警視庁公安部では徹夜を終えた男達がデスクでグーっと伸びをしていた。
そのままフロアを出て自販機へと向かう。
ガコンっと大きな音を立てて缶コーヒーが落ちてくる。
缶コーヒーを片手に休憩室へと入った彼らは扉が閉まるやいなや手に持ってきたそれをがぶ飲みした。
「ぷはーっ、一気に目が覚めてくるな」
「でもさすがに3徹はきついですけどね」
疲労が溜まった二人は休憩室の椅子にドサッと座る。
「というか最近の降谷さん何かずっと雰囲気怖いよな」
「あー、一ヶ月前ぐらいだっけか、皆の前で怒鳴ったの」
「あれはまじ目で殺されるかと思ったわ。確かに俺らが書類ミスったのがいけなかったけど、それでもあんなに怒るのは初めてだったな」
「ずっとピリピリしてるし俺なんか聞きたい事あっても無闇に話しかけられないわ」
「何かあったのかな降谷さん」
「あんな完璧な人があそこまで感情剥き出しにしてるんだぜ?相当の事だろうな」
「女とか?」
「降谷さんに限ってそれはないだろ」
「だよな、降谷さんそういうの興味なさそうだし」
「風見さんとか何か知ってんじゃね」
「確かに風見さんなら…。でも最近の風見さん、降谷さんの影響か日に日に衰退してるようにも見えるんだよな」
「降谷さんの右腕だからその分気を遣うことが多いんじゃないか」
二人は会話に夢中になって扉の向こうにいる気配にも気づかなかった。
二人がそれにようやく気づいたのは扉の音がした時だった。
「聞こえてるぞ、音を下げろ。それに私語も慎め」
「か、風見さん!すいません…!!」
現れたのは風見だった。
ふと休憩室の前を通りかかった時に聞こえた二人の会話。
そこにいたのが自分だったからいいものの降谷さんだったらどうするんだと二人を叱責した。