第3章 居場所
「爆発するぞおおおー!みんな逃げろおぉー!!!」
誰かがそう叫んだ。
周りは次第にパニックに陥った。急いで駅に戻る人、走ってとにかく遠くに逃げる人、近くのビルに逃げ込む人。
私はその全てがスローモーションのように見えた。
─あの白のワゴン車…─
それは私には見覚えがありすぎた。小さい時から乗っていた。今日家を出る時だって見た。何しろ…
助手席で頭から血を流しているのは私のお母さんじゃないのか…
喉がヒュと鳴るのが聞こえた。今は空気も冷えている、にもかかわらず汗がダラダラと止まることを知らない。
見間違えるはずがない、だって、あれは、あの人は…
運転席は相手側の車に押し潰されてもはや原型を留めていなかった。
いや、嘘…
私はふらふらと歩き出した。信号は青だというのに渡る人は誰ひとりいない。
お母さん…お父さん…
「…っおい!お姉さんどこ行くんだよ!見てわかんねえのか!爆発すんだ!お姉さんも逃げろ!」
突如後ろからすごい力で手首を掴まれた。思わず体勢が後ろへ傾いた。
手を引いていたのは制服を着た男の子だった。
「離して…行かなきゃ、お母さんが…いるの…あそこに」
私は必死に彼に訴えた。
「まさか…あの車に?だめだ、ガソリンが漏れてるんだ。いつ爆発すんかわかんねえ、とにかく遠くに「いやっ…
死なせたくない、今行ったら助かるかもしれない…まだ生きてるかもしれないじゃないっ…!」
私の両目からボロボロと涙が溢れた。分かっている、今ここで私が車の傍に行ったら間違いなく死ぬ。でも、このままじゃ…
「悪い、俺はあんたを行かす訳にはいかない」
そう目の前の彼が呟いたかと思うと彼は手首ではなく私の腕掴んでグイッと引いた。そして私の腰をぎゅっと掴んだ。
「いやっ…離してっ…!!お願い、離して…!」
「あんたは逃げれば助かるんだ。目の前で死なれてたまるかよ…」
だれかっ、お願い、そう泣き叫んだ。車の方へ泣いて向かおうとする女を引き止める青年。
傍から見ればおかしな光景だ。周りは私たちの方へ視線を向け、しばらくして車の方へと戻した。
嫌…やめて…いや…お父さん、お母さん…!
私は車の方を見た。お母さんの瞳が薄ら開いてこっちを向いた気がした。
─ドオォォォン!!!!─
おか、あ、さん…