第3章 居場所
課長に遅刻がばれなかったことで今日も普段通りに仕事が進む。
これが終われば帰れる、と思い最後の書類チェックに入る。
これ、数値がちょっとずれてる気がする
書類に気になるところがあり、課長に確認したところ同僚がミスをしていたことに気づく。
「あのやろー、まったく…」
課長は仕方ねえな、と言って頬を掻きながら面倒くさそうに書類を広げる。
「あの、私やりましょうか?課長まだ色々残ってますし、大変でしょうから」
「これお前のミスじゃねえだろ」
「でも、私今日それで終わりなのでちょっとぐらい残業したって大丈夫ですよ」
「わりぃな、んじゃあ頼むわ」
正直なところ今日はこれを終わらせて帰る、と思っていたので中途半端に終わることが嫌だった。
課長は少し肩の荷が下りたかのように柔らかい表現になった。
「課長、チェックお願いします」
「ああ、もう出来たのか。おう、これで大丈夫だな。にしてもすげえな、お前まだ3年目だろ」
「もう3年目ですよ」
「俺は3年目の時こんな仕事できなかったぞ、お前は出世が楽しみだな。」
課長はガハハ、と笑って、んじゃおつかれさま、と手だけヒラヒラ振った。
課長は口が悪いが悪い人ではない。遅刻にはものすごく厳しいけれど。
そんな人に褒められるとやはり嬉しいものである。
普段よりも上機嫌に会社を出た。
電車に乗っている時に携帯を開くとお母さんからメールが来ていた。
─今日はカホの好きなグラタンよ!今からパパと買い物行ってくるから先に帰ってもご飯作らないで待っててね!─
グラタン、という言葉に自然と笑みがこぼれる。
今日の仕事のご褒美だろうか。
早く最寄り駅に着いてくれ、と思うばかりだ。
電車から降り、いつもより早足で改札を出る。夕飯が楽しみであの匂いと味を浮かべては身体がふわっ、と軽くなった気分だ。
今の信号待ちの時間ですら惜しく感じる。
─キィィィ…ガッッシャーン─
待っていた横断歩道の先で凄まじい衝突音が聞こえた。
黒いワンボックス車と白のワゴン車が正面衝突をしている。
二台の周りには破片が飛び散り、特に白のワゴン車は正面が大破していた。
─うわ、やべぇ─
─すごい音したわね─
─乗ってる人生きてんのか?─
─てか白の方煙出てね?─