第18章 不測
「今どこにいるんですか」
そんな私の願いも叶わなくて、しばらくして安室さんがそう言った。
「大丈夫ですよ。安室さんのこと誰にも言ったりしてませんから」
「僕の質問に答えて下さい」
「どうしてですか。そんなに信用できませんか」
「そういう事じゃありません。急に出て行って、心配したんですよ」
「すいません。何も言わずに」
「戻って来て、くれませんか」
何を…言ってるの
必要ないって言ったのは貴方の方じゃない
今になって戻って来てくれないか、なんて
そんな
そんな都合のいいこと
からかって楽しんでるだけなら、正直に言ってくれた方がいい
勝手に勘違いしてたんですね、って
「もう安室さんの前には現れません。迷惑をかけることもありません」
「あの時の事なら謝ります。でも…言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、あの時はカホさんの安全を考えて言ったことです。勿論僕の本音ではありません。あんなこと、1度も思ったことありません」
そう…
それも、どこまで本当なのかしらね
貴方は人を騙すのが得意じゃない
現に雨の日に貴方に言われた時、本気でそう思ってたんだろうなってなったし
普段の貴方の優しさも、偽りだと思えないぐらい私は救われてた。
もう、分からない
本当の安室さんが
「隣にいた女性は裏の仕事の仲間でカホさんに興味を持たせないようにあんな言い方を。すみません、本当に」
なら、
さっきからこのシートから感じる少しキツい香水の匂いはその女の人のものなのかな
多分最近、ここに座っていた。
車の中で、2人で…
もうやめよう
これ以上考えたら、自分がまた嫌いになる。
ドロドロと汚い物が自分の中で溢れていく。
彼とは終わった。
私は今後彼に関わることはない。
彼の、思い通りになることもない。
「そうですか、でもそれに関してはもういいんです」
「それは、どういうことですか」
「もう何とも思ってませんから。安室さんも私なんかに関わる必要なんてないでしょう?邪魔者が居なくなったんだから」
「邪魔者だなんて思ってるわけないじゃないですか。僕にとって、カホさんは…
「安室さん、信号、青ですよ」
再び走り出した車内はさっきまでの会話が途切れて、静まり返った。
しばらくして会社の建物が見えた。