第18章 不測
「ここでいいです。ありがとうございました。」
そう告げて外に出ようと車のドアノブに手をかける。
その時後ろからカチッとシートベルトを外す音が聞こえて
自分の背後に気配を感じた。
ドアノブにかけた手は彼の大きな手に塞がれて
身体は運転席の方に引っ張られた。
「…っん!…っっ!」
両手を手で包まれたと思えば唇に生暖かい感触を感じた。
目の前にある彼の青い瞳と目線が絡まった。
やだ…離して…どうして、こんな…
彼の胸元を叩く。
でも彼はそんなの何とも思ってないかのようで。
ヌルッと口内に侵入してくる彼の舌。
口内を侵されてるかのように激しく暴れて
それに溺れそうになってる自分もいた。
飲まれては…だめ
舌から伝わる熱を感じながらもその意識だけは持ち続けた。
ここで飲まれたら、私はまた振り出しに戻る。
そしたら、彼を忘れるのは永遠に訪れないかもしれない。
そんなの、自分が苦しいだけだから
彼はずっと私の目を見ていた。
心の中まで射抜くような、そんな熱い目で。
会社の人に見られたらどうしようとか
そう思って、まだこんなこと考える余裕があるから大丈夫だと自分を保った。
時々彼から与えられる唾液は戻す訳にも行かなくて、それは必然的に私の喉を通った。
彼の物が私の身体に入っていることに心は嬉しさを覚えていて、
それが嫌だった。
矛盾だらけの私が。
気づけば生理的な涙が頬を伝った。
彼の顔がぼやけて見えた。
ようやく離された彼の唇はどちらのかも分からない唾液で濡れていた。
なんで彼がキスをしたのか、私には全く分からなかった。
「さようなら」
私は唇を拭って外へ出た。
歩道を歩きながら涙を拭いて何度も瞬きをした。
ただ真っ直ぐ前を向いて足を進めた。
時折顔に当たる冷たい風が、涙を乾かしてくれた。
会社に戻って残りの仕事を終えた。
何も考えずに、早くその仕事を終わらせることだけを考えた。
会社からの帰り道はなんだか凄く昴さんに会いたかった。
今のこのぐちゃぐちゃになった心を受け止めて欲しかった。
今日あったことを忘れさせて欲しかった。
考えたくなくなかった。彼のことなんて。
家が見えて、私は走った。
急いで扉を開けて中に入った。
どうしたんですか、と昴さんが出てきて
靴を脱ぎ捨てて私は昴さんに抱きついてそのままキスをした。