第16章 思考
すいません、と昴さんは言った。
口移し
いや、でも仕方ないし、これは私が寝てしまっていたのが悪い。
「いえ、私の方こそなんだかすいません」
「まあ私としては嬉しかったですけど」
「…!え、ちょっと何言ってるんですか!」
「私は本音を申し上げただけですよ」
淡々とそう告げる昴さん。
そうだ、昴さんは私が好きだと言ってくれたんだった。
でも、こんな…こんな正直に言わなくても、
「ふふ、可愛いですね」
「はい?」
「そうやって、顔を赤らめて焦っているカホさん」
なんでこの人こんなに恥ずかしいこと堂々と言えるんだろう。
いや、これは今に始まったことじゃないか。
私は心のどこかで諦め、吹っ切れることにした。
「朝ごはん、お粥を作ったんですが食べれそうですか?」
「あ、はい」
「では、こちらに運びますので待っててくださいね」
昴さんはそう言うと部屋を出ていった。
正直なところ昨日は夜ご飯を食べていないのでお腹が尋常じゃないほど空いている。
でも病み上がりとも言えるこの体。
もっとがっつりしたものが食べたい…
昴さんがトレーを手に持って部屋に入ってくる。
「…昴さん」
「なんでしょう?」
「明日の夕飯は私が作ってもいいですか」
「いいですけど、どうしてですか?」
「今凄く自分の好きな物をたらふく食べたい気分なんです」
「ああ、そういうことですか。お好きなだけ作ってください」
「…昴さん!」
目の前で微笑む昴さんが今は神様のように見えた。
「いただきます」
私はスプーンに手を伸ばした。
が、それは私の視界から消える。
目の前にはお粥の入った器とスプーンを持った昴さん。
この状況は…
「はい、口開けて下さい」
「いえ、自分で食べれるので」
「カホさん右手使えないでしょう?」
「…っ。左手で食べますから」
「それで零したりしたら布団を洗うのは私ですよ」
そうだけれど…
昴さんに食べさせてもらうのは恥ずかしい。
だってこれ全部そうして食べるってことでしょ?
そんなの耐えられる訳がない。
「冷めちゃいますよ?」
「…どうしてもそうやって食べなきゃだめですか」
「これ以外にどうやって食べるつもりですか?」
ここまで言われてしまってはもう反論の余地がない。
昴さんはフーっと掬ったお粥を覚ます。
私は遠慮がちに口を開けた。