第16章 思考
目が覚めるとなぜか見覚えのある天井。
あれ、私昨日自分で寝たっけ?
上体を起こそうとすると右手に鈍い痛みが走った。
「…っ」
どうしたものかと自分の右手を見ると右手首の辺りに包帯が巻かれている。
そう言えば昨日、私、階段から落ちたんじゃなかったっけ
あの後どうしたのだろうと考えていると突然自室の扉が開いた。
「起きましたか」
「…おはようございます。昴さん」
「おはようございますカホさん」
「あ、あの。私昨日、階段から落ちて、その…昴さんが処置してくれたんですか?」
これ、と右手首へと視線を向ける。
「いえ、私はカホさんを病院に運んだだけです。熱もありましたし、詳しく調べてもらった方が良いかと思いまして」
そう言われてみれば、昨日のあの倦怠感は今はそれほど感じない。
「ご迷惑をおかけして、すいません」
「いえ、謝る事ではないですよ。あ、ただ傘を忘れて雨が降っている時は必ず連絡して下さいね。同じようにはならないように」
「…はい」
昴さんは、大事に至らなくて良かったです、と言った。
また助けてもらってしまったと申し訳なく思った。
「今は解熱剤が効いて熱が下がっていると思いますが、今日と明日は安静にしていて下さい。手首も捻挫ではありますが無理に動かすと悪化する恐れがあるので、何かできないことがあったら遠慮なく私を呼んでください」
「はい、ありがとうございます」
これ以上昴さんに迷惑はかけられない。
仕事も長く休んではいられない。
そのためにも今日は身体を休ませよう。
「念の為、体温測っておいた方がいいですかね」
昴さんは私に体温計を渡した。
─37.2度─
平熱より少し高いが、そこまで慌てるほどでもない。
「昨日のカホさんは39.0度まであったんですよ」
「えっ!そんなに、」
道理であんなに身体が動かない訳だ。
解熱剤ってそんなに効くのか。
製薬会社に勤めているにも関わらず、薬自体にそこまで関心はなかった。
いざ使用してその有難みが分かるなあ、なんて。
あれ、
私、昨日解熱剤なんて飲んだっけ?
「あの、私、昨日解熱剤を飲んだ記憶が無いんですけど」
「ああ、それなら私が勝手にカホさんに飲ませたので」
「え?」
「カホさん寝てしまってたので私が口移しで飲ませました」