第16章 思考
口の中に広がる温かくてほのかな甘み。
美味しい…
お粥独特の優しい味が今の身体には丁度良くて。
「…美味しいです」
「良かったです。生姜を混ぜてみたんですよ」
昴さんに食べさせてもらうと言うのは多少抵抗があったけど、それも食べ進めるうちに消えていった。
「ごちそうさまでした。あと、ありがとうございました」
「いえ、食欲がちゃんとあるようで安心しました。薬はここに置いておきますので飲んでおいて下さい」
昴さんはそう言うとトレーを持って部屋を出ていった。
私は口に薬を含んで水で飲み込む。
布団に再び入ってしばらくぼーっと天井を見ていた。
─ガチャ─
扉が開く音がして視線を向けるとそこには昴さん。
「あ、起こしてしまいましたか」
「いえ、ずっと起きてました」
「これを貼っておいた方がいいかと思って」
昴さんが持っていたのは熱さまシート。
熱の時にはかかせないそれ。
私は上体を起こして、それを受け取ろうとした。
「カホさんはそのままで」
「え?」
そう言うと昴さんは私のベッドに腰かけた。
昴さんの手が近づいてきて私の前髪をかきあげる。
大きな手が額に被さってひんやりとしたそれが貼られた。
一気に押し寄せてくる冷たさに頭が少しキーンとする。
「ふふ」
ふと聞こえた声に顔を上げると、昴さんは笑っていて
「どうして笑っているんですか」
「いえ、苦手なのだなと」
「これは誰だってそうなりますよ」
昴さんはまだ笑っていた。
しばらくして彼は出ていった。
横になって目を瞑った。
でも全然眠れなかった。
額に昴さんに触れられた時の感触が残っている。
包み込むような、そんな安心感のある手のひら。
私は熱なんて滅多に出さない。
最後に出したのは、恐らく大学生の時。
その時は"彼"が看病してくれた。
今と同じように前髪をかきあげてシートを貼ってくれた。
似ていた、その時の感覚に
さっき貼られた時に思い出したその記憶。
時々重なる昴さんと"彼"の姿。
全然違うのに、
どうしてなんだろう
カホは瞳の奥で考えていた。
でもそれは自分の勝手な思い込みだと自分を自嘲した。
その日は昼、夜と沖矢がカホの部屋に食事を運んだ。
カホはほとんどベッドの上で過ごしていた。
夜には熱はもうほとんど無かった。