第16章 思考
ごちそうさまでした、
と言ってポアロを出る。
赤井さんにさっき俺が安室さんに尋ねたこと、彼のその時の反応についてメールを入れる。
すると直ぐに返信が来た。
─ありがとう。でも坊やも危険な真似はあまりするな。相手はバーボンだ。何を思っているか分からん─
危険だと分かっていても黒の組織絡み、しかもカホさんも絡んでいるとなると俺も何もせずにはいられなかった。
カホさんを危険な目に合わせたら、それこそ
俺はバーボンを恨む。
それにしても赤井さんは大丈夫なのだろうか。
好きな女性が別の男性、しかも黒の組織の一員と一緒に住んでいたなんて。
とりあえず今は赤井さんの所にいて安全なことに変わりはないが。
赤井さんも相当辛いんじゃないか
俺は赤井さんからのメールを見ながらそう思った。
赤井が彼女の口から真実を知った日から数日後。
カホは職場のトイレで一人焦りの表情を浮かべていた。
体がだるくて汗をびっしょりとかいている。
この後会議なのに…
このまま早退する訳にもいかない。
今日の会議の進行役は私。
進行役が居なくなっては会議はできない。
鞄に入っていた汗ふきシートで顔の部分の汗だけでも拭き取る。
けれどこれが単なる熱さだけではないことは分かっている。
恐らく昨日雨に濡れて帰ったのがいけなかったのだ。
傘を忘れてそのままダッシュで家に帰った。
昴さんには、どうして連絡しなかったんですか、と怒られた。
それが今日に響いたのだろう。
なんとか会議は持ち堪えて…、お願い
鏡に映った自分の顔は顔色が悪いように見える。
ファンデーションを少し濃いめに塗って何とか誤魔化した。
「お先に失礼します」
なんとか会議を終えた私はフラフラの足取りで家に帰る。
電車の中は満員で、私は扉の近くに立ったまま。
本当は立っていられないぐらい体は倦怠感に襲われていた。
─ガチャ─
玄関の扉を開けて家の中に入る。
ただいま、
そう言いたかったが大きな声を出す余裕もなかった。
今はとにかくこの汗で濡れた服を着替えたい。
私は二階へと続く階段を登る。
一段がとてつもなく重い。
何段か登った時、体がフラつくのを覚えた。
あ、落ちる
そう思った時には視界には天井が映っていた。