第3章 居場所
私は実家暮らしをしている。職場からは少し離れているが、それでも私は実家に住み続けている。
昔は実家に住んでいなかった。
一緒に住んでいる人がいた。
その人から別れを告げられた。
私が住んでいたのはもともと彼の家だった。そうすると必然的に私が出ていくことになる。
住むところが無くなった、それよりも彼に別れを言われたことが頭を埋めつくしていた。
ショックだった。
全然そんな素振りがなかったから。むしろこのまま結婚するんだろうかとまで思っていた。
私は彼を依存するまでに愛していた。彼が私の世界の中心だった。彼からも愛情が伝わってきた、はずだったのに。
─カホより好きな人が出来たんだ─
受け入れることができなかった。
てっきり彼は自分のことを愛してくれていると思っていた。いや、愛してくれていたのは確かだと思う。たくさんそう言ってくれたし普段の行為からもそれが感じられた。
ただ思い当たることがあるとすれば別れを切り出される前までの1週間の彼の様子。たまに返事が曖昧になったり、私を抱いた後切なそうに微笑んだり。
あれは申し訳ない、ということだったのだろうか。
泣いた。
嫌、と言った。彼のいない人生なんて信じられなかった。彼以上好きな人が今後出来るとも思えなかった。
─俺はもうそいつを抱いた─
目の前が真っ暗になった。彼が他の女性に触れたこと、あの彼の吐息を、彼の熱い視線を、
自分じゃない人に向けたこと。
その日のうちに荷物をまとめた。
─私はあなたを愛してる。でもそんなあなたが好きになった人だから、彼女はとてもいい人なんでしょう。あなたがその人といて幸せなら私はそれを望むべきかもしれない。
…でも
今は素直にそう思えない─
その日の夜、そう告げて彼の家を出た。
1度も足を止めなかった。
走って追いかけてきてくれるんじゃないかと思ったけど、そんな都合のいいことは起こるはずがなくて、
そのまま実家に向かった。
実家にはお正月とか夏休みぐらいにしか帰ってなかったからこんな真夜中に突然帰ってきて、両親は何事かと玄関から出てきた。
でも私の泣き腫らした顔を見て何も言わずに抱きしめてくれた。
両親のぬくもりを感じて、私は家の前で泣き喚いてしまった。