第15章 語られる存在
赤井はリビングを出た後、自室ではなく彼女の使用している部屋へと足を向けた。
彼女が言った言葉の中に気になることがあったからだ。
カホの元に連絡が来ている
これは赤井にとって相手を知る大きな手がかりだった。
もしもカホが例の男を名前で登録していた場合、そいつの素性を知ることが可能となる。
決して好ましくはない行為だが、異常な連絡の数、または内容によってはストーカーになる可能性も無いとは言えない。
カホが想いを寄せる相手だ。
それに一緒に暮らしてた男。
カホに危険が及ぶのは避けたい。
そもそもなぜカホは付き合ってもない男と一緒に住んでいたのか。
あいつはそんなことする奴だったか?
そんな、危険があると分かっている事を
これは赤井がずっと気になっていたことだった。
身体の関係の為に住まいを共にするなど彼女ならそんな事はしないし、そんな相手も作らないはずだ。
脅されていた?
相手は男。何らかの理由で同居を強いられ、拒否できない状態でいた、弱みを握られていた。
それなら彼女が一緒に住んでいた理由にもなるんじゃないか。
だったら余計知りたかった。
もしそれが本当なら…
俺は、そいつを…
赤井はカホの部屋の扉を開けた。
机の上に置かれた彼女のスマホが目に入る。
起動させると、暗証番号の入力画面が出てくる。
確か…
赤井はカホの誕生日を入力する。
するとロックは解除され画面が変わった。
そこに電話のマークが記されたアプリを見つける。
彼女の携帯を勝手に開くなんて彼女が知ったらどう思うだろうか。
すまない、しかし…
彼女を悲しませる男を
俺しか知らない彼女を知った男を
彼女に触れた男を
彼女が想いを寄せる男を
知らない訳にはいかない
俺はそれを押して通話履歴を見た。
そこには他と比べて明らかに回数が多い着信がひとつ
それは全て不在着信
そいつの名前は
安室透
俺はもう一度その名前を見返す。
だが書かれた文字は変わらない。
彼、なのか
予想もしていなかったその名前
それはかつて共に行動し、因縁の関係でもある男の名だった