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恋と麻薬【名探偵コナン】

第15章 語られる存在


赤井がそう思っているとも知らないカホはソファーにぐだーっと横になって再び独りでに呟く。

「メールも、怖くて開けない…。電話も何回もかけてきてるけど、そんなの出れるわけないじゃん。なんでかけてくるの、居なくなって嬉しいんじゃないの、」

カホの目から一筋の涙が頬を伝う。
普段なら決してこんな弱っている姿を人前に晒すことはない。
けれど今のカホは酒を含んでいる。
赤井が隣にいることも忘れてただ孤独に彼を想って出た涙だった。

「…会いたい。でも会いたくない。貴方に会うのが怖い。また拒絶されるんじゃないかって、突き放されるんじゃないかって」

赤井はカホの言葉に口を挟もうとはしなかった。
ただ今はカホの口から告げられる思いと、決して良くは思えない彼女の話しかけている相手の姿を知ろうと思ったのだ。


「貴方に会わなくなってもう結構経つのにまだ忘れてないの、貴方の作ってくれたご飯の味。あの日の朝食の味を。…馬鹿だよね。ほんとに…嫌い。矛盾だらけの、自分が嫌い。」

カホは段々と眠気が襲ってくるのを感じた。
瞼が重くなりながらも、居るはずのない彼の姿を思って呟く。


「連絡先…消せないんだよ…、怖くて…出れないくせに。声だって…聞きたい、名前も…読んで欲しい。

演技…出来てたかな…。気づいて…なかったでしょ?


私が…貴方を好きだってこと…」




そう言って彼女は眠りに落ちた。














─私が…貴方を好きだってこと─


赤井は眠りについた彼女を横目で見ながら先程の彼女の言葉を思い出す。

やはり、な…


どこかでそうだろうと分かっていたが、実際彼女の口から聞くのは辛いものだ。

彼女を奪うと言っておきながら、俺は彼女の目にすら映っていない。

かつてカホの表情を独り占めしていたのは俺だ。

喜ぶ顔も、焦った顔も、恥ずかしがる顔も、怒った顔も


でも今お前がそれを向けるのは、別の男なんだろ?

誰なんだ、そんなにカホをかき乱しているのは











静かなリビングにギシッとソファーが軋む音が響いた。




カホの身体には彼女より一回り大きい影が映る。


段々とその影が彼女に近づいて、しばらくして、それはひとつに重なった。

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