第15章 語られる存在
「住み着いてた?その方はカホさんの友達じゃないんですか?」
「友達?そんなんじゃない…。彼とは…他人、の方が近かかったのかもね」
そうだ。私達の関係は他人、の方がしっくりくる。
だって友達でもないし、恋人でもない。
親しい、とかそんなのでもない。
監視する側とされる側、それしか繋がりがなかったんだ。
なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
カホは切なそうに眉を下げた。
彼との今までの生活が嘘だらけだったなんて受け入れたくなかったのだ。
気持ちを紛らわすために俯いてグラスを手に取った。
だからカホは気づけなかった。
目の前の沖矢が目を見開いて、その瞳に怒りと嫉妬の色を浮かべていたことに。
─彼─
カホはそう言った。
自分の中で散らばっていたパーツがカチッと音を立ててはまったかのようだった。
いつかの自分が思い浮かべた仮説
カホの同居人は男だったんじゃないか
その仮説は、今まさに立証されようとしている
彼女がさっきから頭に浮かべていたのは、その男のことだと言うのか
忘れたくても思い出してしまう、そんな男
同居人をそんな風に思うのか
そもそも恋人でもない男と同居なんて、カホも何を考えているんだ
男と一緒に住むなんて、もし手を出されでもしたら…
ああ、そうか…
あのキスマークはそういうことか
抱かれたのか、そいつに
一緒に暮らして、身体の関係まで持って、
そんなの恋人と変わらないんじゃないのか
そいつを忘れられないのか、
お前はそこから逃げ出してきたんじゃないのか
なのにまだそいつのことを思っているのか
俺が傍にいるのにも関わらず
好きなのか、そいつが
赤井は静かに怒りと見えない相手への嫉妬心を湧き上がらせていた。
彼女が自分に会うまで恋人を作っていないという証拠もない。
振ったのは自分なのだ。
彼女が誰か別の男と一緒になってもそれは俺が口を挟むことでもない。
彼女が幸せならそれでもいい。
一時はそう思った。
でも目の前の彼女はどうだ
幸せそうなのか、この姿が
付き合ってもない男と暮らして抱かれて、そこから逃げ出してそいつのことを思って悲しんでいる。
なら…
そいつを俺が忘れさせて
カホを奪っても、問題ないよな