第14章 訪問者
少しだけなら、大丈夫かな
カホは普段あまりお酒を飲まない。
弱い、というのもあるがお酒に対してそこまで執着がない。
だから今までカホが飲んだことがあるお酒は片手で数えられるぐらいだ。
今沖矢が差し出しているウイスキーもカホは飲んだことがないもので。
「じゃあ、少しだけなら」
カホがそう言うと沖矢はテーブルにボトルを置いてキッチンへと向かう。
戻ってきた彼の手にはジュースやらナッツやら普段目にしない物も見える。
「あの、私飲み方とか全然知らなくて…」
「大丈夫ですよ。色んな方法を試してみましょうか」
沖矢は細長いグラスにウイスキーを少し注いだ後、冷えたオレンジジュースを多めに加えた。
鮮やかなオレンジ色が段々黒みがかかっていく。
軽くマドラーでかき混ぜてからカホの前にコト、と置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カホは目の前のグラスを手に取った。
お酒とジュースを混ぜるなど今までした事がなかった。
液体の色が美しく、しばらくカホはその姿に見とれていた。
そっとそれに口づけた。
「美味しい…」
「それは良かったです」
カホは素直に感動していた。
お酒をここまで美味しいと感じたことはなかった。
ウイスキーという名前だけで勝手に強くて、癖のある味などと思っていたがそれをオレンジがまろやかに和らげていた。
口当たりもよく飲みやすかった。
カホはいつの間にかグラスを空にしていた。
中身のなくなったそれを片手に持ってカホは固まる。
もっと飲みたい、
そう思っても自分はお酒とジュースの割合など分かるはずもなく、勝手に作っていいのかと要らぬ心配もしていた。
隣の沖矢はウイスキーをロックで飲んでいた。
凄いなあ、昴さん
お酒の知識が乏しいカホでもさすがに彼がお酒に相当強いのだろうという事は分かった。
ふと沖矢は隣から自分に向けられる視線に気づいた。
「どうしました?」
「えっ…あ、いや、凄いなぁと」
「凄い、とは?」
「お酒強いんですね、」
「ああ、そうですね。でも普通より少し飲めるぐらいですよ」
沖矢はまたそれに口付ける。
そう言えば安室さんはストレートだったなあ
カホは目の前の沖矢の姿に彼の姿を思い出した。