第14章 訪問者
「これだけは言っておこう」
目の前にいるのは沖矢昴。だが、コナンにはその奥に赤井の姿が重なって見えた。
「俺はカホほど好きになった女はいない。今でも、だ」
坊やならこの意味が分かるだろ?と沖矢、いや、赤井秀一は言った。
コナンの中で霧が晴れたように心がすっと軽くなった。
そうか、赤井さんは今でも…
コナンは軽く笑って顔をあげる。
「ごめんなさい、赤井さん。ボク勘違いしてたよ」
「いや、俺も坊やにちゃんと言ってなかったしな」
赤井もフッと笑ってコナンを見下ろした。
「カホさんとは…組織に入るのが理由で別れたの?」
「ああ、彼女を巻き込む訳にはいかないし、彼女がいて別の女と付き合うなんて出来ないからな」
赤井はカホと別れた時のことを思い出す。
ひどく最低で、彼女を傷つけた。
もっと他に言い方が無かったのか、と今でも思うがあの時は自分と完全に縁を切って欲しかった。
俺という存在が彼女の中から消えるぐらいに。
それは自分の本音ではないが
赤井が黙っている一方でコナンもまた考えていた。
赤井さんはまだカホさんのことが好きで、今もその気持ちは変わっていない。
それならカホさんは?
カホさんはまだ赤井さんのことが好きなのだろうか
その問にはっきり頷けないのは俺の中で一人の男の姿がちらついているからだ。
安室透
別の名をバーボン
彼らの接点が何なのか、それは想像もできないし二人はただの知り合いのようにも見える。
でもなんなんだ。
二人のあの空気は。
知り合いにしては二人のお互いを見る目は周りと違うものがある。
カホさんは安室さんを少し悲しそうに見ている。
安室さんは、なんだか、愛おしそうな目で彼女を見ている。
もしかして、カホさんは…
いや、でもそうだとしたら
それは、いいと言えるのだろうか
人の恋愛なんて口を出すことではないが、相手はあの黒の組織の一員。
もし安室さんがカホさんの気持ちに気づいていたら、彼女を都合のいいように扱うかもしれない。
もし彼の周りにそんな存在がいたら、恐らく他の組織のメンバーにも目をつけられる。
そしたら彼女は危険に晒される。
コナンはまだ憶測でしかないこの考えを真に受け入れられなかった。