第13章 救いの手
本当に…いいのかな、
安室さんの事があって、さらに男の人の家にお邪魔するなんて
安室さんは条件があって住んでたけど、沖矢さんはただ普通に住んでくれていいと言っている
一人にならなくてもいいのかな
安室さんがいなくなったらまた私は居場所がなくなると思ってた
それを受け入れなきゃいけない、そう思ってた
結果、居場所がなくなってしまった
沖矢さんだっていつかは追い出すのかな
ずっとそこにいても良い訳ではないでしょう?
いつかは貴方も消えちゃうんじゃないの
「私は居なくなったりしませんよ」
「え?」
隣から聞こえてきた声に視線を向けると沖矢さんは前を見たまま
「カホさんはずっとここに居てくれていいんです。私はカホさんの前からいなくなったりしませんし、そもそも自分の好きな人が一緒に居てくれるなら、手放したりはしませんよ」
決して、と沖矢さんは言った。
どうして、分かるの
私の考えてたことを見透かされたみたいに
私の欲しい言葉を貴方はくれるの
自分の心臓をぎゅっと掴まれたみたいに胸が締め付けられた。
「あ、私の住んでる家は大きいので家事とかはカホさんにも少し手伝って貰いたいのですが」
「それは、もちろんします…!」
「ふふ、それは住んでくれる、ということですよね」
「あ…」
思わず言ってしまった言葉。
沖矢さんはフッ、と笑って意地悪な笑みを浮かべている。
その顔は私は今まで見たことがなくて。
その笑い方が、少し…"彼"に似ていた。
人を馬鹿にした時に、面白がって笑う時の。
「着きましたよ」
沖矢さんは車を工藤邸の前へと止める。
「荷物は私が運びますので、カホさんはリビングで待っていて下さい」
「いえ…!私の荷物ですから、そんな大丈夫です」
「そうですか、なら手提げはお願いしてもいいですか?」
「いえ、キャリーバッグも運びますから…」
「カホさんが運ぶより、私が運んだ方が早いと思いますよ」
「なっ…」
沖矢さんはまたさっきの意地悪な笑みを浮かべて言った。
いや、そうかもしんないけど
沖矢さんは私のキャリーバッグを片手で持って普段と変わらない歩幅で玄関へと向かっている。
あれ結構重いんだけどな
私は残りの荷物を抱えて彼の背中を追った。