第13章 救いの手
「本当、なんですか…」
「ええ、そもそも私は手助けとはいっても普通の女性にはキスはしません。」
カホさんだったからです、と沖矢さんは言う。
沖矢さんは嘘をついているようには見えなかった。
沖矢さんからの告白は嫌だとかそんなのは思わなかった。
急すぎて、驚いて頭が追いついていないというのもあるけど。
でも私は、安室さんが…
安室さんは、もう会えないんだった
好きでいてもそれが叶うことはない。
彼にはもう既にあんなに美しい恋人がいる。
そこに私の好意は何の意味もなさない。
失恋、したのか
やっと気づいた。
私の片想いは終わってしまったのだと。
じゃあ沖矢さんの気持ちにはどう答えればいいの。
今までの手助けは私に好意があった上でのこと。
確かにそれは感謝しきれないことだ。
沖矢さんは悪い人じゃないし優しくて紳士で…
でも今の私は、彼の気持ちには
応えられない
彼を忘れるなんて簡単に出来ない
こんな形になっても
「ごめんなさい、沖矢さんの気持ちには…」
「カホさん」
沖矢さんは私の言葉を遮って名前を呼ぶ。
「カホさんは私の事をまだ全然知りませんよね」
「…?はい、知らないと思います」
「なら、返事は私の事を知った後でもいいんじゃないですか」
「え?」
「せっかく一緒に住むんですし」
そう言われて私は気づいた。
この車は今、沖矢さんの家に向かっているのだと。
「いや、あの、私は一緒に住むなんて言ってません!」
「では、私の好意が迷惑、ということですか?」
「そ、そういう訳じゃ…」
というか告白された後で一緒に暮らすのは少し危険なのではないのか。
彼がもし何か接触してきた場合、それは自分に気があるからで…。
それを分かってて一緒に暮らすというのは自分も承諾したという事になってしまうのでは。
「好きな人が困っていたら助ける、それは当たり前ですから」
沖矢さんは握っていた手にぎゅっと力を込める。
「それに…嫌なことも誰かと一緒の方が忘れられるんじゃないですか?」
安室さんのこと
それは確かに忘れたい
忘れたくないけれど、忘れなきゃいけない
「でもそんなの、沖矢さんを利用してるみたいで嫌です」
「私はカホさんに利用されるなら光栄ですよ」