第13章 救いの手
自分でそう納得しておいてまた彼のことを思い出してしまった。
いつから彼は私の事を呆れて見ていたのだろう
─少し優しくしただけで勘違いしてもらっては困りますね─
その優しさに私は救われたんだけどな…
だったらもっと早く追い出せば良かったんじゃないの
好きとか言わなければいいじゃない
キスだって、セックスだって、あんな…あんな愛おしそうにしなくたって…
カホさんって…あんな優しく呼ばないで
でも一番嫌なのは、こんなことしか思えない自分
自分がいけない、のに。
ああ、どうしよう
また泣きそう
「そんな顔しないでください」
私の頭の上に何かが優しく乗せられた。
それは沖矢さんの手のひらだった。
「何か辛いことがあったんでしょう?」
沖矢さんは身体を屈めて私の視線に合わせる。
「一人で我慢しなくていい」
いつもより、少し強い口調で言われた言葉。
それが、"彼"に似てるな、なんて。
そう言えば安室さんにも出会った頃言われたっけな。
沖矢さんの言葉に少し涙腺が緩む。
でもこんな所で泣く訳にはいかない。
私は目元にぎゅっと力を入れて沖矢さんに笑顔を向ける。
泣いちゃだめ
「沖矢さんは優しいですね。いつも、私が困っている時に助けてくれる」
沖矢さんは黙って私を見つめる。
「でも、いつまでもそんなんじゃいけない。人に頼ってばっかじゃ、自分で何もできない」
「人に頼ることも大切ですよ」
「確かにそうかもしれません。でも今回は、私が悪いんです、本当に。だから、沖矢さんに助けてもらう必要はありません」
私は沖矢さんの目を見てそう言った。
沖矢さんはいつも私に手を差し伸べてくれる。
安室さんだってそうだった。辛い時には寄り添ってくれた。
私はそんな彼を好きになっていった。
なんでもかんでも人に優しくされてはいけない。
一人で、頑張らなきゃ。
それに沖矢さんは…
なんだか"彼"に似てるから。
これは沖矢さんは全然関係ないし、私が勝手に思ってる事だけど。
沖矢さんは身体を起こして私の目線から消える。
「そうですか。カホさんは助けられることに抵抗があると」
「抵抗、と言うか沖矢さんには頼ってばかりですし、家まで住まわせてもらうことは助ける、の範囲を超えている気がして」