第13章 救いの手
「馬鹿みたいだな、って思って」
「馬鹿みたい…?」
「ええ、ほんとに自分に呆れるぐらい」
沖矢さんには意味が分からないだろう。
勝手に口から零れる後悔。
ほとんど独り言に近いけど。
こんなの沖矢さんに言っても迷惑なだけなのに。
「住む所が無くなっちゃったんです」
「それは…どういう…」
「出てきたんです、同居していた人の家から」
沖矢はカホの言葉に片目が薄らと開いた。
グリーンの瞳がカホをじっと見つめる。
同居…
沖矢は表情を変えてはいない。
が、身体の中からは黒い何かが湧き始めていた。
「…それは、お付き合いなさっていた方の家、ということですか」
「…そんなんじゃないです。ただの、同居人」
沖矢はカホの返事に多少の間があったことを見逃さなかった。
カホは嘘をついているんじゃないか
だが前にもカホは言った。
付き合ってる人はいない、と。
だとしたら本当に同居してるだけで、彼女は何らかの理由でそこを出てきた、という事だ。
そしたらさっきの間はなんなのか。
今の表情だって、どうしてそんなに辛そうにしている。
沖矢はふとある事を思い出す。
彼女の首元に付いていたキスマーク
あれはいつ付けられたのか。
恋人がいない彼女に簡単にそれを付けられる存在。
沖矢の中にひとつの嫌な考えが浮かぶ。
同居人は男
歯がギシッと鳴る音が聞こえた。
まさか、な
そう思ってもその考えを否定しきれない自分がいた。
「カホさんは今日はどうされるんですか?」
「今日は行く場所もないのでホテルに泊まろうかと」
「良かったら私の家に来ませんか?」
カホは沖矢の言葉に目が丸くなる。
え?どういう事?
「えっと、それはどういう…」
「直ぐに家も借りれないでしょうし、ホテル暮らしだとお金もかかるでしょう」
「そうですけど、沖矢さんの家に住むなんて」
「僕は構いませんよ。家は広すぎるぐらいですし、部屋も余ってますから」
沖矢さんに迷惑だ、という理由は却下された。
本人がいいと言っているのだから。
でもいくらなんでも男女が一つ屋根の下で生活すると言うのは良くないのではないか。
そこまで思って私は今までの生活を思い出す。
いや、あれは監視だし…
監視だったから