第13章 救いの手
安室の家を出たカホは特に目的もなく目の前の道を歩いていた。
出てきたはいいがカホには家がない。
以前"彼"の家から去った時は実家に戻ったが今はそれも出来ない。
ホテルに泊まるしかないか
カホは近場のホテルを検索する。
ただずっとホテル暮らしとなるとお金も膨らむ。
早いところアパートか何かを借りなければと考える。
グゥー…
ふとお腹が鳴った。
そう言えば安室さんの家に急いで帰ったから夕飯を食べていない。
コンビニに寄らなきゃ
カホはホテルを予約する前に近くのコンビニを探した。
「いらっしゃいませー」
レジにいた店員が自分のことを見て少し驚いているのが分かった。
そう思うのも理解できる。
なんせ自分は大きなキャリーバッグと手提げを両手に持っているのだから。
こんな住宅街、しかもスーツ姿。
観光地でもない場所でこの姿は傍から見れば異様かもしれない。
ガラガラとキャリーバッグを引きずって陳列された棚の傍へと進む。
「カホさん?」
ふと前方から声をかけられる。
こんな所を見られたくない、という思いに駆られるが今更どうすることも出来ない。
目の前にいる人物を見る。
「沖矢さん…」
沖矢さんは私の姿をじっと見ている。
いつもこんな時に会っちゃうな…
沖矢さんの顔から今の表情は読み取れない。
何を考えているのか、少し怖かった。
「沖矢さんがコンビニってなんだか似合いませんね」
「雑貨が足りなくなってしまって、スーパーにはありませんから」
「コンビニって何でもありますしね」
別にこんな会話がしたい訳じゃないのに。
早く買ってこの場から去りたい。
でも前には沖矢さん。無視して進むことなんて出来ない。
「カホさんは何処かへ行かれるんですか?」
「まあ、そんなところです」
「出張にしては荷物が多くないですか、しかもこんな時間に」
「出張…ではないです」
「ではどちらへ」
私は言葉に詰まる。
住む場所がない、なんて言ったらどう思われるんだろう。
その理由も同居人の家を出てきたからだなんて。
付き合ってた訳でもない、その人に勝手に騙されて。
それが今になって分かったなんてね。
「どうして笑ってるんですか」
ふと沖矢さんが言った。
いつの間にか自嘲の笑みが零れていた。