第2章 お酒
買い物を終え家に戻ってレジ袋をテーブルに置いた。
ゴン、と何か鈍い音がした。
あ、お酒買ったんだった
袋からバーボンを取り出して彼がお酒を並べている棚の端にそっと置いた。
ふとさっきの出来事が蘇る。
親切な人だったな
何かお礼をした方がいいのか、と考えるも連絡先どころか名前すら聞いていないことに気づく。
名前聞いておけばよかった
あのスーパーを普段から利用しているならまたいつか会えるかもしれない。
そう考えてパスタを作る準備を始めた。
昼食を食べ終えスマホを開くと彼からLINEがきていた。
─今日は帰りが遅くなります─
こういった日は夜中、遅いときは朝になって彼が帰宅するのがほとんどだ。まあ、夜じゃなきゃ仕事が出来ないのだろう。
彼と出会ったのは彼がこの仕事をしていた真っ最中だった。
詳しくは教えてもらっていないが、その時の様子からして彼は殺し屋かそれに似た者だと考えている。
ポアロでの様子を知るものからはとても想像ができないだろう。キラキラスマイルを振り撒いている彼が裏では人を殺しているのだ。
私が先に出会ったのは裏の仕事の方だったのでポアロを初めて訪れた時は少し驚いたものだ。
あの時ほんとは彼に私も殺されていたんだろう。
今でも鮮明に覚えている。額に突きつけられた金属の冷たい感触。
彼の不敵な笑み。
怖くなかった
どうでもよくなっていた
なぜ彼が私を殺さなかったのかわからない。その引き換えとして恋人になることが条件だった。
いや、実際は恋人という名の監視なのだが
夕方になって早めの夕飯にしようとカップラーメンを取り出した。
こういった日のためにと彼には毎回怒られるが買っている。
1人で食事をとるのにあまり料理はしたくないのだ。
短時間で夕飯を済ませてソファに座ってテレビを見る。
テレビでは30代の女性が車に轢かれたとニュースで報道している。彼女は買い物帰りだったそうで手にはケーキを持っていたのだという。
彼女の旦那と思われる男性が涙ながらに記者に話す。
「今日は息子の誕生日だったんです…ぅっ…数時間前に、予約してたケーキを取りに行ってくる、って家を出て、それで…っ」
スタジオへと画面が切り替わるとアナウンサーが神妙な面持ちで原稿を見ていた。