第2章 お酒
顎に手を添えてうんうんと悩むこと数分。悩んでいてもきりがないので1番高いスコッチを買おうとボトルに手を伸ばした。
「そのスコッチは結構癖がありますよ」
突然聞こえた声に手が止まった。
声のした方を見ると眼鏡を掛けてピンクがかった髪の男性がいた。
え、なんで声かけたの?
知らない人に急に買い物を遮られ少し怪訝に思った。
無意識のうちにその人を警戒してしまった。
「そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ。」
私の表情を見てか彼はそう告げた。
「あなたがここでずっと悩んでいるのを目にしまして、お酒についてあまり詳しくないのでは、と思って声をかけてしまいました」
余計なお世話だったらすいません、と彼は微笑みながら言った。
「あ、いえ、その通り…です」
急に恥ずかしくなってスコッチに伸ばしていた手を元に戻した。
「ご自分でお飲みになるんですか?」
「いえ、一緒に…あ、えっと、友人にあげようかと」
「その方はお酒がお強いんですか?」
「ええ、多分…」
そう言うと目の前の彼は顎に手を添えて何か考えているようにして、
「バーボン、とかどうですか?」
「バーボン?」
バーボンは名前は聞いたことがあるけど安室さんが飲んでいるところは多分1度も見たことがない。
「その方はスコッチが好きなんでしょう?」
「え?」
「さっき買おうとしてましたから」
「あ、はい」
「だったら恐らくバーボンも飲めると思いますよ」
そういうものなのだろうか。でも私よりも目の前の彼の方がお酒の知識があるのは確かだろう。
「僕は最近このバーボンが好きでして」
そう言うと近くにあったバーボンのボトルを1つ取って私の前に差し出した。
「癖もなくて飲みやすいんですよ」
飲みやすいならあまり飲み慣れてなくても大丈夫だろうか。
「あ、買うのは私ではありませんね、ただおすすめしていると思って下さい」
彼はまたニコッと微笑んだ。せっかく紹介してもらったことだし、これにしよう。
「ありがとうございます、これにします」
「フフ、良かったです」
差し出されたバーボンを受け取ってカゴにいれた。
ありがとうございました、そう言って軽くおじきをし、レジへと向かった。
沖矢昴はレジへ向かう彼女の後ろ姿をじっと見ていた。
─やっと会えたな─
そう呟いた彼はどこか切なそうに見えた。