第11章 出会い
「誰かも分からない人を家に住まわせるわけにはいかないでしょ。ある程度調べたんじゃないですか」
彼女にそう言われて驚いた。
いつもは相手の素性を知るために何も思わずにやっていたこと。
今回はそれに後ろめたさを感じた。
「…すいません、生い立ちやご家族の事を調べました」
「なら、両親の最期も知っているんですよね」
「はい」
彼女はふと顔を上げる。そしてどこか遠くを見つめるように目を細めた。
「あの時、両親は買い物の帰りだったんです。お母さんが自分の好きなグラタンを作ってくれる、ってメールが着てて…」
そこまで言って彼女が何を言いたいのかなんとなくわかった気がした。
「すごく好きだったんです、お母さんの作るグラタン。あの日もメールが着て急いで家に帰ろうとしてた。でも、お母さんは私の目の前で亡くなった」
「目の前…ですか?」
「ええ、目の前で車が爆発した。助けられなかった。すぐ近くにいたのに…」
彼女は目の前で両親の最期を見た、ということか。
ただでさえ辛い事故なのに、そんな事があったとは…
「私はお母さんのように上手にグラタンは作れないんです。ましてや両親が亡くなってから自分で作るなんてことはなかった。だからさっきの安室さんのグラタンを口にした時、なんだか心の奥から何かが溢れてしまって」
「そう、だったんですか…」
「ごめんなさい、せっかく作ってくれたのに。あんな重い空気にしてしまって」
「いえ…」
そうか、思い出してしまったのか。両親の思い出と、最期を。
「カホさん」
「はい」
「僕のでよければいつでも作りますよ。カホさんの好きなグラタン」
「え?」
「好きなのに食べないなんて勿体ないですし、ご家族の事も思い出してしまうかもしれませんが、それは、悪い思い出ばかりじゃないでしょう?」
「安室さん…」
彼女は段々と目に涙を浮かべた。
しばらくして片方の目からそれは零れた。
「…っ…ごめんなさい、また…」
「いいんですよ」
俺は彼女を抱きしめた。
彼女は一瞬ビクッとしたがすぐに大人しくなった。
彼女の身体は温かかった。
彼女はここにいる、そう思った。
彼女の背中をトントン、と叩いた。
「大丈夫、泣いていいんですよ。我慢しなくていいんです」
「…っ、安室さん…」