第11章 出会い
「おまたせしました」
俺はテーブルに料理を運ぶ。
今日はいつもより肌寒かったので家にあった食材を使ってグラタンにしてみた。
自分も席について手を合わせようとする。
が、彼女の方がやけに静かなことに気づいた。
「…カホさん?」
彼女は目の前のグラタンを見たまま固まっている。
苦手だったのだろうか。
「グラタンがどうかしました?」
「あっ、いえ…なんでもありません…」
彼女は静かに手を合わせていただきます、と言った。
俺は彼女の様子が気になりながらも手を合わせて食事に手をつける。
「…っ」
しばらくして前からすすり泣くような声が聞こえた。
はっと顔を上げて目の前を見た。
彼女は泣いていた。
俺は焦った。なぜ泣いているのか全く思い当たることがない。
「どうしたんですかっ…何か嫌なことでもありましたか…?」
彼女はどうやらグラタンを口にした後らしい。
やはりグラタンに何かあったのだろうか。
彼女は泣きながら首を横に振った。
「…っ違うんです…違うの…」
彼女はそう否定する。
俺にはここまで泣いている彼女に、何もないとは思えなかった。
「苦手…でしたか?」
彼女はまた首を横に振る。
「いえ…すごく…おいしい…。すごく…っ」
そう言って彼女はまたグラタンに口をつける。
しばらくの間彼女は泣きながらグラタンを食べ続けた。
俺はその様子をじっと見ていた。
なぜ彼女がここまで泣いているのか分からなかった。
自分の手が止まっていた。
気づいた時には俺のグラタンは少し熱が冷めていた。
食事を終え、俺は彼女にテレビでも一緒に見ないか、と言った。
彼女は頷いて俺が座ってたソファーの隣に腰を下ろした。
お互い何も話さず、バラエティー番組のナレーションがただずっとテレビから聞こえていた。
「私、グラタンすごく好きなんです」
突然彼女が言った。
俺はテレビの画面から目線を外して彼女を見た。
彼女は手を膝の上に置いて服をぎゅっと掴んでいた。
「さっきの安室さんが作ってくれたグラタン、本当に美味しかったです」
「それは良かったです」
そう言いながら頭では彼女は何を伝えたいのかが分からないままでいた。
さっきの泣いていたのと、何か関係があるのだろうか。
「安室さんは私のことをどこまで知っていますか」