第11章 出会い
「その時彼女は言ったんだ、殺せばいいじゃない、って。
普通言わないだろ、拳銃を向けられてる状況で。
彼女は死を怖がっていなかった、生きることを手放していたんだ」
「どうして…」
「俺もその時はどうしてか分からなかった。けれど、もしここで彼女をそのまま手放したら本当に消えてしまうんじゃないかと思ったんだ。ふとした事で最悪のケースになってしまうんじゃないかと」
「だから一緒に住む、と」
「ああ、確かに馬鹿げた話だ。いくら偽名で公安であるのは伏せたとしても四六時中ボロを出さないようにしなきゃいけない。ただの一般人をこちら側に巻き込んでしまっているしな」
「…」
「それでも俺は彼女を手元に置いておきたかった。危険な時は守れるように、消えてしまわないように、生きることを望めるように」
「…彼女がそこまでして心を閉ざしてしまっているのは、先月に起きた彼女の両親の事故でしょうか」
「ああ、恐らくそれが大きいとは思っている。だが俺にはそれ以外に何かまだあるとも思っている」
「それ以外…ですか?」
「家族以外の何か、だ。あの衰弱具合は異常だ。いくらあの事故で家族を失ったとしても、1ヶ月経過している。それに彼女は仕事も出勤している。ここ最近に何かあったか、以前にも似たようなことがあったのではないかと考えているんだがな」
「確かに、家族じゃなくても身近に支えてくれる人はいますからね。例えば、恋人とか」
「彼女は恋人はいない、と言っていた」
「そうですか、付き合っている人が入れば多少形は違うものになっていたかもしれませんね」
俺は風見の言葉に一瞬思考が止まった。
カホに恋人がいたら、今はどうなっていたのか。
恐らく今の状況にはなっていなかっただろう。
そうだ、俺は別に彼女の本当の恋人ではないのだ。
支え、とはなれないのだろうか
「そうだな…。だがこれ以上彼女を弱らせる訳にもいかない。そのためにこういう形にしたんだ。風見にも迷惑をかけるかもしれないが、そこはよろしく頼む」
「はい、しっかりサポートできるよう取り組ませていただきます」
風見の表情はどこか腑に落ちたようにすっきりしていた。
納得してもらって良かった。
好意を抱いてる、なんてことは死んでも言えないがこれもそれと同じぐらい思っていることだ。
彼女を決して悲しませるわけにはいかないな。