第20章 羨望
店を出たら六時半。
冨岡くんといると時間が健康的だ。
「送っていく」
「え、別に良いのに」
「何かあったら寝覚めが悪い」
あとけっこう男前。何でモテないのかな…ていうか、彼女作る気あるのか?
もう少しでマンションが見えてくるというところで、冨岡くんが言った。
「そういえば、不死川は今日ずいぶんと早くに帰ったが俺と食事をして良かったのか?」
「……え?」
「早々に終わらせて俺より早く帰ったが…。」
ちょっと待て。
私は今日の朝、まだ拗ねていて朝ご飯も食べず見送りもせず仕事に没頭した。
だから、今日の予定とか知らなかったわけで。
「やっっっっっべ。」
「やはり。」
冨岡くんが耳を塞いだ。彼も気づいたのだろう。その存在に。
「テメエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」
「ひえっ」
「俺を楯にするな」
相変わらずボタンを閉めない着崩したスーツ姿のまま走ってくるので冨岡くんの後ろに隠れた。どれほど走ったのかゼエゼエハアハアと必死に息を整えている。
「アホかッ!!!真面目に心配したわッ!!!」
「も…申し訳ない……」
汗まみれで怒鳴る実弥を前に罪悪感が襲った。
いつも通りにもっと夜遅いかと思ってました…。
「な、ん、で、よりによって冨岡といるんだよおおお!!!」
「霧雨がご飯に誘ってきた」
「はあァ!?」
きっと実弥が睨んでくる。
うっわ詰んだ。
「まあ、そもそもは不死川に原因があるから、仕方ない。」
「お前は何偉そうに話してんだァ」
「ステーイ、不死川くんステーイ」
今にも殴りかかりそうな実弥を制する。血の気が多い、一触即発なんだよ。教師がそれはまずいでしょ。
「そ、それじゃあ冨岡くん、色々ありがとう…。呼び出しといて割り勘でごめんね、今度はおごります。」
「次は和食が良い。」
「ラジャ。」
「二度と会うんじゃねえッ!!!」
まだつかみかかりそうな実弥を引っ張り、私はマンションへ戻っていった。