第4章 凹凸
私がこうなったのは、中学生の時に始めた美術部のせいだと思う。
けっこうはまってしまって、気づけば芸術系の公立高校へ外部進学して絵を学んでいた。
そのまま流れるように美大に進み、卒業後はイラストレーターとなった。絵を仕事にするのは大変で、同棲の費用は全て折半だったから最初の数年はバイトと掛け持ちでやっていた。
同棲を始めた頃実弥がよく心配してくれた。多分、一人だったら倒れてたな。
二年ほど前の、依頼された絵本の仕事がなかなかに好評で注目してもらい、一時期はテレビに取り上げられて生まれて初めて取材を受けた。
その後、本の挿し絵や雑誌の表紙、絵の講演などをこつこつとこなして嬉しいことに知名度があがった。バイトをせずとも生きていけるようになり、イラストレーターとして成功しつつある。
絵をたくさん描くようになった分、外に出ることがなくなった。自分のことより絵、絵、絵。
同棲したての頃、身だしなみは気を付けていたけれど仕事の多忙さに追われるうちに諦めた。
でも、実弥は文句を言わない。注意するけど、嫌だと言わない。今みたいに、連れ出してくれるし。
美容院でカットしてくれている人にその話をしていると、彼はニヤリと笑った。
「へえ、良い彼氏さんだね?」
「……やめて、そういうの」
「は、照れてやんの」
偉そうに言うのは前世での戦友、桜ハカナ…の、妹。
「お兄ちゃんに言ったら面白そうな話。」
「本当に似た者兄弟だね…。」
「はは、お兄ちゃん霧雨さんのことあれでも気にかけてるんだよ。」
桜くんは今大学院に通う学生だ。妹はとっくに社会人として働いているけれど、頭の良い彼はまだまだ学びたいことが山盛りらしい。