第4章 凹凸
桜くんが何よりも守りたかった妹。彼女に前世の記憶はないのだと彼は言っていた。
妹のことは大切にしているようで、シスコンではないけれど良き兄であるようだ。
「ねえ霧雨さん、今日こそカラーとかパーマとかしてみない?絶対おしゃれ髪似合うよ~。これからお洋服買いに行くんでしょ?ヘアアレンジする?」
「しません。」
「ええ~。」
キッパリと言うと、彼女はしょんぼりとした。
「ねえ、すくだけじゃなくてバッサリいっていいの?かなり切っちゃうけど。」
「いいの。どうせ伸びるんだから。」
「んも~…一年ぶりに来たと思ったら素っ気ない。今や有名人なんだから身だしなみに気をつかいなよ!仮にも彼氏と暮らしてるんでしょ?」
有名人…か。確かに色んな人に認知されるようになったけど、私を知らない人なんてたくさんいるし、そんなに鼻高々にもなれないんだけどな。
「ねね、せめてこれくらいは残そうよ!これなら色んなヘアアレンジできるよ?」
「ええ~…いいよ、しないもん」
「“しない”じゃなくて“する”の!はい決定。」
妹…ハルナちゃんはお兄ちゃんと違って、ペラペラとは話さないけど言葉の圧とか決断力はお兄ちゃんそっくり。
まあいいかと思って任せていると、彼女は満足したようで出来上がった髪型をにこにこ笑顔で見ていた。
「ねえ写真とってお兄ちゃんに見せていい?」
「…いいけど、見せてどうするの?」
「お兄ちゃん、霧雨さんに会えなくて寂しがってるから。」
「ナニソレ」
私がいいよと言う前に問答無用で写真を撮られた。鬼か。
代金を支払い、彼女にお礼を言って店を出た。
店のすぐ外に実弥がいた。律儀に待つ辺り彼らしい。
「お、良いじゃねえか。」
「そう~?もっとバッサリしてほしかったんだけど。」
「俺はこれくらいが好きだね。」
実弥が毛先を一房つまんで言った。私は何だか視線を感じて慌てて店の中を振り返った。
ガラス張りの店のため中はよく見える。
ハルナちゃんは、にやりと笑っていた。
………何で、実弥の好み把握しているのかしら。